「そうなのよ。今日は拓海(たくみ)の大好きな(とり)の唐揚げでも作ってあげようかと思ってね」

 〝拓海〟というのが、真樹の弟の名前である。ちなみに、真樹と拓海とは父親が違う。
 麻木家はけっこう複雑な家庭なのだ。それはさておき。

「へえ。で、拓海は? 今日は一緒に来てないんだ?」

 拓海はこの四月で小学六年生になる。でも今は春休みなので、母親にベッタリな弟はついて来ているだろうと真樹は思ったのだけれど。

「今日は家で、おばあちゃんとお留守番してる。もう買い物について来るような年でもないし」

「そうだね」

 真樹は(うなず)く。ちなみに〝おばあちゃん〟というのは真樹と拓海の母方の祖母で、都美子の実母である。 
 真樹が生まれたのは都美子がまだ二十代前半の頃だったので、祖母は現在七十代前半。まだまだ若々しくて元気である。

「あら、真樹は今日カレー作るの? ゴメンね、ホントはお母さんも手伝いに行きたいんだけど」

 母は真樹が持っているカゴの中身を見てそう言った。

「いいよぉ、お母さん。大丈夫! カレーくらい、あたし一人で作れるよ。お母さんに似て料理は得意なんだから」

 弟の拓海はこれから反抗期で、まだまだ手がかかりそうだから、母にかかる負担を減らすためにも真樹は早く自立しなければ。

「何か困ったことあったら、お母さんに話聞いてもらいに帰るから。拓海とおばあちゃんによろしく。……じゃね」

 真樹は海藻(かいそう)サラダのパックを一つカゴに入れ、レジに向かおうとしたのだけれど――。

「真樹、ちょっと待って」

「ん? なに?」

 母に呼び止められ、首を傾げながら再び振り返った。