――十二時を少し過ぎて体育館に着くと、中には岡原達のグループや当時のクラス担任や各教科担当の先生達を含めたほぼ全員が揃っていた。

(今日来られなかった子も、中にはいるんだろうな……)

 案内状は、同級生全員に届いていたはず。几帳(きちょう)(めん)な田渕くんのことだから、そこに抜かりはないと思う。

 ただ、現在サービス業で働いている子も多いだろう。真樹は運よく今日休みが取れたからいいものの、残念ながら休みが合わずに欠席した子だっているだろう。

「――そういえばさ、今日一日、学校貸し切りになってるらしいよ」

 体育館の入り口で来客用スリッパに履き替えながら、美雪が言った。

「そうなの? ……あ、どうりでどこの部活もやってないワケだ」

 真樹は納得した。そういえば、今日は一人も在校生に会っていないなと思い返す。

 たとえば、運動部だったら祝日でもグラウンドや体育館、テニスコートなどで練習や試合などをしていてもおかしくないのだ。
 ところが、今日は本当に一人も見かけていない。顧問の先生が何人か同窓会に出席すると決まっていたからかもしれない。

「――麻木さん、久しぶりね。今日はよく来てくれました」

 真樹達を出迎えてくれたのは、三年生の頃にクラス担任だった英語教諭の山村(やまむら)()(こと)先生だ。

「山村先生、ご無沙汰(ぶさた)してます。先生、お元気そうですね」

 真樹は丁寧に挨拶した。 

「ええ、元気よ。他の子達とは今でも会えるけど、麻木さんにはなかなか会えないから。――ああ、作家デビューしたそうね。おめでとう」

「あ、はい! ありがとうございます!」

 山村先生は真樹が所属していた文芸部の顧問でもあったので、作家・麻木マキとしても彼女は〝恩師〟なのだ。だから、恩師からの祝いの言葉は真樹にとって、何より嬉しいものだった。

「教え子が夢を(かな)えてくれるほど喜ばしいこと、教師にはないもの。実はね、わたしも麻木さんの本読んでるのよ。全刊ね」