「そうかぁ? まあ、今の仕事、五年続けてっから? お前も、ちょっとは背ぇ伸びたよな」

「ちょっとって何さ!? 失礼な!」

 子供にやるみたいに、上から頭をポンポン叩く岡原に、真樹はムッとしたのと半分照れ隠しで突っかかった。

「悪りぃ、冗談だって。つうか、マジで髪も伸びてるし、女らしくなったよな」

「そ……そりゃあ女だもん! 五年も経てば変わるよ、あたしだって」

(もしかして……、リップ塗ってることにも気づいてる?)

 真樹は彼に顔をまじまじと見つめられているような気がして、気が気ではなかった。

(少しは「可愛い」って思ってもらえてたらいいな……。でも逆に、「あざとい」って思われてたらどうしよう)

 そんな彼女の心の(かっ)(とう)を察知してか、岡原がかけたのは意外な言葉だった。

「そのリップの色、いいじゃん。真樹によく似合ってんじゃね?」

 彼のキャラにはおおよそ似つかわしくない()め言葉に、真樹はポカンとする。

「……それって本心から言ってる?」

 褒められたのは嬉しいけれど、彼女がよく知っている岡原はそんな歯の浮くようなセリフを吐くような男ではないため、どうしても疑ってしまう。

「もちろん本心だよ。……なんだよ、その目は? 信じてねえな?」

「…………ま、そういうことにしといてあげますか」

 本当はまだ疑っているけれど、真樹は途中で白旗を揚げた。

「――今日、お前も来られてよかった。例のやり直しさせられた原稿、その調子だと順調なんだろ?」

「まあね。今、第二稿に入ってる。――っていうか、アンタも知ってたなんてねー。あたしが作家デビューしてたって」

 岡原がラノベとはいえ、コミック以外の本を読むような人間だなんて意外だと真樹は思った。
 というより、彼が本屋に出入りする光景そのものが、真樹には想像もつかないのだ。

「おう、知ってるともさ。だって俺、お前の本が出るたんびに買ってるもん。――ホラ」