「自慢じゃないけど、モテないワケじゃないんだよ。これでも、この五年の間に何人も付き合ってほしいって言ってくれた人いるんだから。でもね、全部あたしから断ったの」

『なあ、それって……俺のせいか?』

「ノーコメント」

 真樹は澄ましてそう答えた。彼も、真樹に対して()い目は感じているらしい。

「まあでも、心配しないでよ。同窓会までに間に合わせて何とか頑張るから。あたしも同窓会、楽しみにしてるしさ。――それに」

『それに?』

 もう意地をはらずに素直になろう。――真樹はそう決心した。

「アンタさ、同窓会の日にあたしに伝えたいことあるって言ってたじゃん?」

『うん、言ったけど』

「あたしも、アンタに伝えたいことがあるから。だから――」

『うん、分かった。俺も当日まで楽しみにしてっから』

「岡原……」

 真樹が最後(みな)まで言わなくても、彼は分かってくれた。きっと、彼女の気持ちにもずっと前から気づいていたのだろう。

『だから仕事頑張れよ! 途中で()ぇ上げてほっぽり出すようなことすんじゃねえぞ!』

「うん! ほっぽり出したりしないよぉ。これでもあたし、プロだからさ」

 駆け出しとはいえ、プロの物書きとしてのプライドがある。ファンをガッカリさせたくはないのだ。

「――あっ、けっこうな長電話になっちゃったね。ゴメン、時間大丈夫だった?」

『ああ、大丈夫だ。俺、一人暮らしだし。夜はメシ食って、風呂入って寝るだけだから他にやることもないしな』

「えっ、そっちも? あたしも一人暮らししてるんだよ。三階建てのマンションの二階で(ワン)DKの部屋なんだけど」

『へえ、そうなん? 俺んとこは二階建てアパートの二階、角部屋。ワンルーム』

 お互いの部屋の話で盛り上がり、また長電話が長引きそうになり、真樹は「ヤベっ」と思った。「なるハヤで」と言われている仕事があるので、時間が()しい。