『あれま。作家って大変なんだな。んで? お前の一番苦手な路線ってどんなんよ』

「……それ、あたしに訊くんだ?」

 誰のせいで書けなくなったと思ってんの、という抗議の意味も込めて、刺々(とげとげ)しく質問返しにしてやった。けれど、あまりいじめるのもかわいそうだし、八つ当たりするのも(とはいえ、原因が彼であることは間違いないのだけれど)良心が痛むので、情けないけれど彼女は渋々答えた。

「まあいいや、答えてあげる。恋愛系だよ。あたし、デビューしてから一回も、恋愛系は書いてないの」

『うん、知ってる』

「……え?」

『いや、いい。気にすんな。つうかさ、理由訊いていい?』

(……いや、「気にすんな」って言われても気になるし。っていうか、アンタが理由訊くんかい)

 岡原の言動はツッコミどころ満載だし、無神経だ。大人なら、そこは訊くべきではないと思うのだけれど――。

『――お~い、真樹ー? もしも~し、聞こえてるかー?』 

 真樹が絶句していると、電話が切れたと思ったのか、彼はまだ呼びかけ続けている。

「バカ、聞こえてるってば。――理由、どうしても聞きたいなら教えてあげるけど。笑わないって約束してよ?」

『分かった分かった。笑わねえから』

 真樹が念押しすると、彼はすでに笑っていながら頷いた。

(っていうか、もう笑ってんじゃん)

「笑うな」って言ったそばからコレだよ、とツッコもうとしたけれど、やめた。これでは一向に話が進まない。

「理由は……、あたしに一人も彼氏がいなかったから。あたしね、あれから誰とも付き合ったことないの」

『えっ、マジで!? お前、そんなにモテなかったっけ?』

「……岡原、ぶっ飛ばすよ?」

 コメカミをヒクヒクさせながら真樹が低ぅい声でそう告げると、さすがの岡原もビビったらしい。殊勝に「悪りぃ、調子に乗りすぎた」と謝った。