この書店は、豊島区内の商店街にある。店長の川辺さん夫妻が経営している二階建ての中規模な店舗だ。
「――すいませーん。本の注文をしてて、入荷したって連絡もらったんですけど」
レジ横の事務カウンターで売り場の在庫を確認していた真樹は、黒縁メガネをかけた三十代くらいの男性に声をかけられた。
「はい。ただいま確認します。――お控えを見せて頂けますか?」
〝控え〟というのは、注文書のお客様控えのことである。――真樹はその男性客から預かった控えと、店のファイルに保管してある注文書の原本を照らし合わせ、在庫管理も行っているパソコンで商品の入荷情報を確かめた。
「橘春樹さまですね。――はい、ご注文された商品はすでに入荷してますね。お持ちしますので、ちょっと待って頂いていいでしょうか」
彼女は他のバイト店員に持ち場を代わってもらい、バックヤードの書庫へ向かった。
「えーっと、一一九八番は……あった!」
売り場の棚に並ぶ商品とは別に、個別注文で入荷した商品はコンテナにまとめられ、注文票の番号が付箋で貼り付けられている。
真樹はファイルの中の〈橘春樹〉という名前の注文書番号を確かめた。それが、一一九八番だったのだ。
注文された商品は、ハードカバーの小説。最近直木賞だか芥川賞だかの最終候補に残った男性作家が二年前に出したデビュー作だ。
「――お待たせしました! こちらの商品で間違いないでしょうか? タイトルと著者名の確認、お願いできますか?」
「そうそう! それです。間違いない」
男性客――橘さんは満足そうに頷いた。
「――すいませーん。本の注文をしてて、入荷したって連絡もらったんですけど」
レジ横の事務カウンターで売り場の在庫を確認していた真樹は、黒縁メガネをかけた三十代くらいの男性に声をかけられた。
「はい。ただいま確認します。――お控えを見せて頂けますか?」
〝控え〟というのは、注文書のお客様控えのことである。――真樹はその男性客から預かった控えと、店のファイルに保管してある注文書の原本を照らし合わせ、在庫管理も行っているパソコンで商品の入荷情報を確かめた。
「橘春樹さまですね。――はい、ご注文された商品はすでに入荷してますね。お持ちしますので、ちょっと待って頂いていいでしょうか」
彼女は他のバイト店員に持ち場を代わってもらい、バックヤードの書庫へ向かった。
「えーっと、一一九八番は……あった!」
売り場の棚に並ぶ商品とは別に、個別注文で入荷した商品はコンテナにまとめられ、注文票の番号が付箋で貼り付けられている。
真樹はファイルの中の〈橘春樹〉という名前の注文書番号を確かめた。それが、一一九八番だったのだ。
注文された商品は、ハードカバーの小説。最近直木賞だか芥川賞だかの最終候補に残った男性作家が二年前に出したデビュー作だ。
「――お待たせしました! こちらの商品で間違いないでしょうか? タイトルと著者名の確認、お願いできますか?」
「そうそう! それです。間違いない」
男性客――橘さんは満足そうに頷いた。