「こんにちは」

突っ立っているだけの俺の元に視線が送られた。綾子さんが俺のことを見ていた。無視する理由もなく、むしろ美人は大歓迎だ。

「あ、どうも、こんにちは」

「零士くんのお友達?」

「はい。同じシェアハウスに住んでる鈴村陽汰って言います」

「陽汰くんね。私は片山綾子です。ごめんね。足止めさせちゃって」

「いえいえ。別に急いでるわけじゃないんで」

綾子さんはとても気さくな人だった。酸いも甘いも知っていそうな感じで。だけど青臭い俺たちを見下してるわけでもない。

もしかしてさっき零士が言ってた林檎の匂いがする人って、綾子さんのことか?

ってことは、零士の運命の相手?

運命論なんて信じちゃいないけど、零士がことごとく女子からの誘いを断わっていた理由が見えてきた。

こんな美人と遊んでれば、そりゃ他に目はいかねーわな。


「じゃあ、私、そろそろ行くね。陽汰くんも零士くんのことよろしくね」

「はい。任せてください!」

つい条件反射で営業スマイルが出てしまった。