たしかに俺は運命を信じてない。よく生まれた時から運命は決まってるなんて言う宿命論者がいるけれど、そんなものは自分次第で変わっていくものだと思ってる。

だから世の中に運命の人もいない。

よって林檎の匂い説も作り話に決まっている。


「まさかそんな中二病みたいなこと信じてるわけじゃねーよな?」

「え、信じてるけど?」

「おいおい、目を覚ませって。そんなん信じてるから彼女できねーんだぞ」

「だって実際に林檎の匂いしたことあるし」

「え、じゃあ、お前は運命の人に会ったってことか?」

「まあ、運命にも色々種類があるからね。必ずしもそれが恋愛と結び付くわけじゃ――」

喋りながら、零士の唇が急に止まった。視線の先にはエコバッグを抱えた女性がいた。

綾子(あやこ)さん……!」

零士はまるで飼い主を見つけたかのような勢いで駆け寄っていった。