――LGBT。セクシュアルマイノリティの総称であり、少数派として(もち)いられた言葉だ。

でも今は20人にひとりは性の問題を抱えていると言われていて、それは左利きの人と同じ割合らしい。

その中でも男性同性愛者はよくピックアップされる。芸能人でもそれを売りにしてタレント活動をしてる人もいるし、珍しいことじゃない。

それでも俺の友達にはいないし、知り合いの知り合いにいるという話も聞いたことがない。

男は当然のように女を好きになり、女は当然のように男を好きになる。

俺はそんな世界線にしかいなかった。


「え、零士のこと知ってたんすか!?」

俺は珍しくルームメイトの部屋を訪ねていた。それは同じ学部の先輩でもあり、この家の一番の古株でもある和久井さんだ。

あいつのことは隠しつつ、LGBTの話をそれとなく振ったら「零士のことを聞いたんだ」なんて言うもんだから、つい声を大きくしてしまった。

これじゃ、こそこそ和久井さんのところに来た意味がない。


「俺だけじゃなくて、他のルームメイトも知ってるよ」

「じゃあ、知らなかったのって俺だけ? 和久井さんはあいつから直接聞いたんですか?」

「もちろん。自分の生活圏内にいる人には極力打ち明けるようにしてるみたいだよ。別に隠してるわけじゃないし、先に喋っちゃったほうが後が楽だからって」

つまりみんなで飯を食ってる時も、プロジェクターで映画を見てる時も、バーカウンター作ろうぜってDIYをした時も、俺だけがなにも知らなかったってわけかよ。

仲間外れ、なんて子供っぽいことを言うつもりはない。でも、どうしたっていい気はしない。