俺が信用できる相手かどうか。腹を割って話せる関係かどうか。いくら精密な計算式を立てたところで、俺は零士に信用されてないし、腹を割って話せる間柄でもないことはわかりきっていた。

どうせまた、あれこれと理屈をつけて誤魔化すんだろう。そうに決まってる。

「たしかに鈴村には言うべきかもね。このままいけばあと二年は同じ家で生活するわけだし」

零士から返ってきた答えは、俺の想像とは違った。

「そ、そうだ。言え、言え! 隠し事は体に毒だぜ。全部俺に吐いちまえ!」

悪のりにも似た煽りだった。ここで一歩下がったら、零士はきっと俺になにも話さない。

さっき心を許してる顔を見てしまったぶん、なんで俺はずっと部外者なんだよというワケのわからない対抗心もあったかもしれない。


「俺ね、男の人しか好きになれないんだよ」

零士は透き通るような声で言った。反応することに出遅れていると、また穏やかな口調が飛んできた。


「物心がついた頃から恋愛対象が女性じゃなかった。だから彼女は一生できないし、女の人と付き合うこともない。ね、根本的に話がズレてたでしょ?」

その顔は少しだけ申し訳なさそうだった。


今まで色んなやつと接してきて、コミュニケーション能力は磨いてきたはずなのに、なんにも言葉が出てこない。

頭を硬いもので殴られたような衝撃だった。

そうなんだって納得するにはあまりに安っぽくて。悪いと謝るのは、なおのこと違う気がした。

零士は「ごめん」と言って、コインランドリーに向かって再び歩き出す。

なんのごめんなのかはわからないけれど、零士はそのごめんを言い慣れているように感じた。