「あの人が運命の人なんだろ? なんで付き合わねーの?」

「綾子さんとはそういう関係じゃないよ」

「あの人とふたりで飲みに行ったりもしてんだろ。男と女がふたりきりになって酒が入れば、大抵そういう流れになんない?」

俺からすれば、そこでなにも起きないことのほうが不自然だ。

「鈴村は清々しいほど〝普通〟の思考を持ってるよね」

「んだよ、それ。バカにしてんのか?」

「バカになんてしてないけど、鈴村に根本的なズレを教えない限り、これからもこういう会話が永遠と続いていくんだろうなって思っただけ」

「お前って本当にまどろっこしい言い方するよな。俺は賢いけど勘は悪いんだよ!」

「威張って言うこと?」

「だから、はっきり言ってくれないとわかんねえ」

そうやって(うなが)すと、零士は難しい顔で黙った。こいつの思考は読み取れないけれど、今頭の中で考えてることは透けていた。