「む、無理っ！」

私は動揺しすぎて思わず敬語を忘れる。

「何故？」

桐人君は冷静そうだが、どこか苛々したような空気と細い目。
こんな彼を初めてみた私は目を合わせることがついに出来なくなって視線を彷徨わせる。

「な、何故って、諒ちゃんも忙しいしっ！」

「まだ学生でしょう？いつでも空けられるでしょう？会わせて下さい。でないと今の話は聞かなかったことにしますから」


私、萩原美優《はぎわらみゆ》は、彼、相良桐人《さがらきりと》君と婚約している。
私は小さい頃から身体が弱かった。
母を恨んではいないが、心臓が弱い母の遺伝子のせいだ。
不整脈と喘息持ちで運動もまともにやらせてもらえなかった。
運動会は職員用のテントから、いつも見学していた。
そんな病弱すぎる私を両親は心配して、月に一度は会うお友達の息子さんの桐人君をお婿さんに下さいと頼んだのだ。
お友達も仲が良いからか、あっさりオッケーを出した。
一歳の私と三歳の彼の意思など無視して。