「お仕事がある桐人君にはやらせられません!私が作ります!だってこうなったのは私の母のせいですから!」

私は鈍臭いが、実は料理はある程度出来る。
母が花嫁修行にと、うちのシェフに中学から私に教わせていた。
桐人君のためにと中学の時は喜んでやっていた。
高校で桐人君に婚約破棄を申し出てからは憂鬱な作業になってしまったけれど。

まさかその腕を彼に振るうことになるとは思ってもいなかったが。

「じゃあお言葉に甘えてお願いしても良いかな」

ニコッと微笑まれて、ドキッとしてしまった。
昨日から何回ドキドキさせられたのかも分からない。

「座って食べて。紅茶で良かったかな」

「はい」

桐人君の前の席に腰を下ろす。
桐人君はどうやらコーヒーを飲んでいる。
芳ばしいコーヒーの香りが目の前から届いてきたから。

中学の時から私は紅茶が好きだ。
それを桐人君が覚えていてくれて、わざわざ作ってくれたなら嬉しい。


「掃除と洗濯はハウスキーパーさんに任せよう。特に掃除は喘息持ちの君は避けて欲しいからね」

どうやら私を気遣ってくれたようだ。