そっか、そうだよね。
流石に私と本気で結婚までするわけないよね。

胸の奥がツキンと痛んだが、気付かないフリをした。

「美優さん、手を繋いでも良いですか?」

「え、」

様子を探るような桐人君に、私は目を見開いて石像のように固まってしまう。

それはどういう意味?

「婚約者と分かるようにね。あと敬語も不自然なのでやめますね、じゃない、やめるね」

微笑みながら念を押されて、『あぁ、成る程』と納得した。
勘違いしそうでした。

「わ、分かりましたっ」

そ、そうよね。
仲良くみせないといけないものね。

「では、手を」

桐人君が手をこちらに差し向けた。

目尻がフワリと下がり、目も口も優しい形。

勝手に飛び跳ねた鼓動に言い聞かせる。

演技、これは演技。
お母さんのための。
桐人君は私を好きなわけじゃない。