「とりあえず帰るよ」

先程桐人君に掴まれたままの手を引っ張られた。

「嫌です!」

全体重を後ろにかけて力一杯拒否すると、桐人君は苛立ち全開の鋭い目を私に向けた。

その目に一瞬怯んだが、帰るまいと体重を後ろにかけ続ける。


「中学の時から桐人君のお嫁さんになるからーって健気に料理頑張ってたのはどこの誰だったかなー?」

そこに割り込んだ諒ちゃんの棒読みの声。

私は勝手に暴露されたことに、目を見開きながら口をパクパクさせる。


「高校の時は桐人君は学園のマドンナの青柳先輩が好きだと思い込んで、傷付きたくない美優ちゃんは自分から身を引いたんだよねー」

詳細を話したことはないのに、私の思っていた通りに話していく棒読みの声。

私は目と口を全開にして固まるしか出来ない。

すると諒ちゃんが私を見ると片方の口端を上げた。


「俺は出てくから、しっかり話し合いしなよ。ごゆっくり〜」

諒ちゃんが手をヒラヒラさせて扉へと足を向けた。