「お母さんの余命話は嘘で皆グルだったの！桐人君も！」

美優は俺の前にあるソファには座らず、俺の前で両手拳を握りしめたままブンブン上下させて声を荒げさせた。

「へぇー、で？」

俺は冷めた口調で返す。

で？と返されるとは思わなかったのだろう、美優は一瞬固まるが、すぐにまた頬を膨らませた。

「だからもう桐人君とは結婚しないの！」

美優は目一杯叫んだ。

「何でそーなる」

「何でって、騙してたから……」

俺が同調しなかったのが不満なのだろう、美優は目線を下げながら語尾を小さくした。

騙してたねぇ……俺に最初に婚約者役を提案しようとした素振りをみせてたくらいなんだから、そんな風には見えなかったけど。

美優は床を見つめている。
そんな美優を俺は頬杖ついている手の指を顔にトントンとさせながら見る。

桐人君とは二十日程一緒に住んでいる。
アイツは全く美優に手を出さなかったようだ。
だって美優は全然分かっていないから。