「貴方達の仲は分かりました。ですが、彼には結婚の意思はないです」

「そ、そりゃあそうですよっ!私達、まだ学生ですしっ!」

それに私達はただの友達だもん!

諒ちゃんに結婚の話を出すなんて、桐人君はそんなに会社を守りたいの?
なんとかして桐人君を納得させないと。

「七年前、私、お断りしたじゃないですか。その時貴方は女性とお付き合いされたじゃないですか……」

高校一年の時、私は桐人君に婚約を解消しようと伝えた。
それからすぐに桐人君には彼女が出来た。

あれからだ、桐人君が私のことを『美優ちゃん』から『美優さん』になったのも。

桐人君は私に興味なんて無いのだ。

「桐人君のお父さんの会社のことは私からも父に頼みます。だから心配しないで下さい……。桐人君は父に恩義なんて感じなくて良い……私にもう、構わなくて良いんです」

自分を犠牲にしてまで会社を守ろうとする桐人君を心から尊敬するよ。

「では」と言って私は頭を下げた。
桐人君と二人きりは気まずいから。
踵を返そうとした瞬間、左の手首を掴まれた。
不意に触れた大きな手にドキッと心臓が跳ねた。


「君は自我が芽生える前から僕の婚約者にさせられた。最近焦るような急かしているような違和感を感じなかった?」