そこから時が止まった。
あるいは時空が歪んだ。
ような気がした。
李衣のぷるっとした可愛らしい唇が、俺の口の端に微かに触れる。
ちゅっと、控えめなリップ音。
……え?
なんて間抜けな顔をしているんだろう俺。
何が起きたのかわけもわからず、口はだらしなく半開き。
目の前に居る李衣は、少しだけ赤く染めた顔を、両手の平で覆っている。
いま。
キスした…か?
李衣が俺に???
思考が追いつかない。
「李衣……いま何…」
頭の中でぐるぐると巡る言葉が、一部分口から溢れていた。
李衣は俺を見て、見たことない表情。
恋する乙女のような、そんな感じ。
「李衣、こーたろのこと好きかも」
その好きが、今までの言葉と違う意味をしているのは、馬鹿な俺にも一瞬でわかった。
………ッ!
ダメダメダメ!ダメに決まってる!
何してくれてんだこの幼なじみは!!
俺は李衣の肩をガシッと掴むと、手の甲で李衣の唇をごしごし拭う。
きゃっ、なんて小さな可愛い悲鳴にさえ反応する自分が怖い。ほんと怖い。
ごしごしごし。
なんて異様な光景。