谷口さんの郁人へのストレートな告白を聞いてしまった。

私は声が漏れないように、手で口を押えた。

郁人はなんて返事するの?

「ごめんね。俺、谷口さんとは付き合えない」

「どうして? 私じゃダメ?」

「んー。俺さ、ずっと好きな子がいるんだよね」

「島田くん、片想い中なの? その好きな人とは付き合ってるわけじゃないってこと?」

「ああ。そうだな。去年の冬から片想い中」

「そうなの。お互い片想いって辛いね。でも私、島田くんのこと諦めないよ。その人に振られたら、私のことも考えてよね」

「多分、振られてもその子のことずっと好きだから。俺のことは忘れてよ」

「ひどいね、島田くん。もう少し優しい言葉で振ってくれたらいのに」

「俺、好きな子以外には優しくしないの。俺が他の人に優しくすると、その子が泣くから。だから、ごめん」

郁人と谷口さんはそこで別れて、それぞれの部屋へ戻って行った。

「はぁーっ。盗み聞ぎしちゃっただろ。上野、これ内緒にしとけよな。誰にも言うなよ。俺、先生失格だな」

「先生、ごめんなさ・・・っ。ふぇーん」

「どどど、どうした? 上野、なんで泣くんだよ」

「先生、今ね、郁人にフラれちゃったよぉ。郁人に好きな人がいるんだってー。うわーん」

「今フラれたのは上野じゃないだろ?」

「でも、同じだもん。私、郁人と出会ったのって春休みだもん。冬に郁人とは知り合いじゃなかったもん」

「はぁ? マジで? なんなんだ、島田は。嘘だろ?」

奥原先生が本当に大学生のお兄ちゃんみたい。

先生は優しく私の頭を撫でてくれて。

「上野、ちゃんと島田と話せよ。俺は上野が誤解しているとしか思えないぞ」

「だって、誤解じゃないよ。先生だってはっきり聞いたでしょ? 郁人の好きな人は・・・。」

先生と話していると、私のスマホが震えた。メールだ。

有希からかな? 今日はほとんど会ってなかったし。

メールを見ると、郁人からだった。

「えっ? い、くと?」

奥原先生も私のスマホを覗き見る。