郁人と2人でレストランの席に座り料理が運ばれてくる間に、郁人がさっき奥原先生に話したことを教えてくれた。

「俺、今夜これからの勉強と明日の勉強会は英語のクラスに行くから」

「なんで? 化学はいいの? どうして英語クラスに?」

「明日の勉強会終了まで帆乃香の面倒を見る代わりに、さっきのプリントを2人で仕上げるから認めてくれって、さっき奥原先生に提案したんだよ。本当なら帆乃香1人でプリントを終わらせないと夕飯抜きだったんだからな」

「そうなの? いつも郁人に迷惑かけてばっかりで、ごめんなさい」

「本当にな」

「すみません・・・」

もう郁人に頭が上がらないよ。

「いいよ。顔上げてよ、帆乃香。こんなの帆乃香限定なんだからな。覚えとけよ」

まただ。

郁人にそんな風に言われたら、私勘違いしちゃうよ。

「郁人は優しいね。でもさ、でも。ふっ、ふぇっ」

「なに、なに、なに! なんで帆乃香、泣くんだよ! 俺、何かした?」

「郁人がさ、優しいから。優しすぎてね、辛いのー」

郁人の優しさが私だけに向いているものではないって思うと、辛くなる。

苦しくなる。

さっき谷口さんに言われたから余計なのかも。

私が郁人の側にいるから告白したくてもできない子がいるって。

谷口さんもその中の一人なのかもしれないし。

たまたま弟の海人くんと知り合ったから。

だから郁人は私に優しくしてくれている。

もし海人くんと出会わなければ、私なんて郁人と話すらできなかった。

「意味分かんねぇ。なんで俺が優しくすると帆乃香が泣くのさ? 辛いってなに?」

「郁人はさ、皆に優しいでしょ? 誰にでもこんなに優しくするの?」

「俺、さっき言ったよね? 帆乃香限定だって。他のヤツが困ってたって助けねぇよ」

「それって。それってさ。私が海人くんの友達だからなんでしょ」

「まぁ、そんな風に言ったこともあったな」

ほらね。海人くんがいなかったら私はただのクラスメイト。

何度聞いたって郁人の答えは同じ。

もう、仕方ないよね。この先私が告白しない限りはこのままの関係なんだもん。

でもさ。もし告白してフラれちゃったら?

そんなのイヤ。郁人と話したり笑い合ったりできなくなるのなんてイヤ。

だったら告白なんてできない。

でも、他の人が郁人に告白してその人と付き合うことになったら?

郁人が誰かを好きになったら?

あれ? 郁人って付き合ってる人とか、好きな人、いないんだっけ?

「おい、帆乃香! なに眉間にしわ寄せて考え事してるの? もう食事来たから、食べるよ」

「本当だ。いつの間に! わぁ、美味しそうだね、郁人」

手を胸の前で合わせて、2人の声が揃った。

『いっただきまーす』

「あはっ、シンクロしたね」

「帆乃香は食べ物があると元気になるな。良かった。元気がないと心配になる」

「しっ、失礼な! あっ、これ美味しい」

「ははっ、帆乃香が機嫌悪くなった時の対処法が分かったわ」

「もう、そんな事より早く食べてみて。美味しいよ」

これ以上考えたって仕方ないから、今のこの状況を楽しむことにした。

私に告白する勇気が出るまで、もう少しだけこのままでいさせて。