「やめろよ」
「いいじゃん、今だけ」
「俺はそんなの望んでない」
「知ってる」
「じゃあ離せ」

そんなことを言いながらも、彼は抵抗せずにじっとしていてくれた。
私のエゴを受け取ってくれた、彼の優しさなのか。

「あのさ……」

彼の頭をぎゅっとしてからどのくらいたっただろう。
しばらくして、そのままでいた彼が口を開いた。

「お前、男にこーゆーことする意味、分かってんの?」
「え?」

思わず腕を緩めると、私を見上げる誠護さん。
赤らんだ頬に、熱を孕んだ瞳。
そこに、べそをかいていた私が映る余地はないらしい。

「そうだよな、お前、俺のこと好きだもんなぁ」

ニヤリと口角をあげた誠護さんが、今度は私の腰をがっちりと掴んだ。
ドクドクと、心臓が嫌なリズムを打ち始める。

「誠護、さん……?」

声が震えた。
それを知った誠護さんは、私の両肩を上から押さえてその場に座らせた。力の強い誠護さんに、私は従うことしかできない。

「……カラダだけならいいぜ。お前、抱けない顔じゃない」

そのまま私を押し倒して、肩をガッチリ押さえつけた。

必死に絞りだそうとするも、声が出ない。

彼の膝が私の太ももに触れて、嫌な汗が流れる。
その間にも、誠護さんの顔がどんどん近づいてくる。

「ムードねえなぁ。目くらい閉じろよ」

そういう誠護さんの吐息が顔にかかる。
どんどん呼吸の回数が増えていく、私。

やだ、嫌だ、いやだ。
私は、私は──

ドスン!

「うおっ!」

思わず蹴りあげた膝が彼の股間にクリーンヒット。
力の抜けた彼の腕の中から急いで身を引き出して、自分の体を抱き締めた。

「サイテー!」

涙目でそう訴えると、彼は自嘲するように笑った。

「そうだ、俺はサイテーな男だ。好きになんてなるな、バカ」

そのままバタバタと誠護さんの部屋を出た。

「サイテーな男、か……」

けれど、そう言った誠護さんの寂しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。