「あのさ、」

キャンディーつまみがなくなった頃、ビールをゴクリと一口含んでから、誠護さんは言った。

「今日の消火訓練。お前、なかなかよかったぞ」
「へっぴり腰って言われたけどね」
「違う、そこじゃない」

へ? と顔をあげると、穏やかに微笑む彼の顔。

「ちょっと前に火事で住居失ったお前には酷だったよなあ、とか、思ったりしたけど」

誠護さんはまたビールを一口飲んだ。

「火と対峙したときのお前の顔、良かった。消防士としての素質、ある」
「べ、別に消防士になんてならないから!」
「ま、そーだろな。でも」

彼は今度は最後の一口だったのか、缶を逆さにして飲み干してから言った。

「今のお前なら、誰かを守れる。それは、誇っていいことだろ」
「誠護さん……」

思わず呟くと、誠護さんは盛大におどけた。

「お前が男だったら、俺惚れてたわ」
「何それ!」

お互いに笑い合う。
この時間は、すごく楽しいのに。

『俺は、恋人は作らない』

先程言われた言葉が胸につかえて、笑っていることさえ虚しくなった。

わかってる、だって、自覚してしまったから。
好きだ。この人が。どうしようもなく。
だけど、この恋は、実らない。

「まーた百面相してる」
「え!?」
「ほら、またそうやって変な顔!」
「もうっ!」
「ははっ! お前さ、やっぱり……いや、いいや」
「え、何ー?」
「……惚れんなよ、俺に」

何気ない会話の中で念を押されてしまう。
だから、きっとばれている。
私の気持ちも、彼に。

「ごちそーさん」

そう言って、キャンディーつまみの乗っていたお皿とビール缶を手に席を立つ誠護さん。
私もその場にいたくなくて、急いでビールを飲み干した。