「や、やめて菫くん!!」

そう言っても私のことなんか無視して、ハサミでガッと自分の腕を切った。

「やぁ!!本当にやめて!!菫くん!!傷つかないでぇ!!」

「だって、楓と喋ったんだもん、苺が」

「ちがうっ……!聞いて……!!」

たしかに、楓さんとは喋った。

「なにがちがうの?」

「私は、楓さんから、菫くんや、菫くんのご兄弟さんが虐待を受けて……感情が、なくなったとか、そんな話をされてっ……」

それで、キミが心配なんだよっ……。

「……ああ、そんなくだらないことね……」

そう言って菫くんは腕を切るのをやめた。

「……くだらなくなんてないよ……?」

「あるよ。ごめんね、変なこと話されて」

「変なことなんかじゃない!!」

楓さんの話を聞かなかったら、菫くんから逃げようって、ずっと思ってたと思う。

菫くんのこともなにもわからないまま。

だから、そのことを知ってよかったと思ってる。

「……話しても、いい?」

「?、い、いいよ……?」

菫くんは、落ち着いた様子で話を始めた。

「……僕には、お兄ちゃんが2人いるんだ。楓、そして薫。」

かお、る……初めて聞いたお名前だ……。

「……僕も、楓も薫も、みんな成績とか、いい点を取らないと殴られる。」

そ、そんなことで……?

「僕たち兄弟は全国のピアノコンクールにも、バイオリンも優勝してるし、完全無欠でいないとだめで。」

す、すごい……。

「抵抗、できないわけじゃないんだ。でも、母さんに抗ったら父さんに病院送りにされる」

「えっ……?」

虐待は、お母さんからって……。

「……早く、こんな家出て行きたい。それで、僕は、苺と幸せに、なりたいんだぁ」

そう言って、切なく笑った菫くんを見て、色々な感情が溢れ出した。

「……そっか……よく、頑張ったね……」

「……!……ありがとう……」

私と、幸せになりたいって……言ってくれた……。

「……じゃあ、2人で、同居でも、するっ……?」

なんて言って微笑んでみた。

「え……いいの?」

「えへへ、いつか……ね」

そんなことを言って微笑んだけど、もう高校生だし、2人で同居して、菫くんは虐待から逃げた方がよかったりするのかな……?

これって、警察に言った方がいいの……?

「……じゃあ、逃げよ……?一緒に」

「へっ?」

そう言って手を差し伸べてきた菫くん。