「蒼井のいじられキャラも大変だね〜」



 しばらく蒼井たちのやりとりを見ていた唯衣が頬杖をついて独り言のように言った。


 独り言みたいだけど、これは会話だ。



 「ね。愛されてる証拠なんだろうけど」


 「うん。度が過ぎると疲れるよね」



 唯衣はまるで自分のことのように言った。


 「ね。」


 「あっ、そろそろ授業始まる!またね」


 そう言って唯衣は自分の席に戻って行った。



 (唯衣、自分のことのように言ってたな…
もしかして部活でいじられキャラなのかな…?
それで…?)


 頬杖をついて空を見ながらふと考える。


 「はーい、始めるぞー号令ー」


 「起立、礼」


 「「よろしくお願いします」」


 「はーい、今日は…」


 (でも、だったら「私も部活でいじられててさ、たまにうざいんだよねー」って唯衣なら言うんじゃないかな…)



 「はい、じゃあここあおいー」


 (えっ?!私…?!え、うそうそどこ?)



 「えー俺っすか?」


 「そうだ、早くしろ」


 (あ、蒼井か…ややこしいな、本当に)


 「また、慌ててたね(笑)」


 「え?」


 隣の席でさっきも出てきた坂本怜。


 何かと絡んできて少し迷惑。


 「さっきもどうしようって顔してた」


 「はあ、」


 「蒼井と同じ名前、大変だね(笑)」


 「はあ、」


 本当はだから、何?って言いたいところだけど別に言ったところでどちらにも利益はない。


 いつも適当に相手をして、会話が続かなくなったら面倒くさくなって相手から話を切る。


 私は別に沢山の人と仲良くなりたいわけじゃないから、正直どうでもいい。


 「いつも空見てるけど、なんで?」


 (まだ、続けてくるの?)


 「なんとなく」


 「ふーん面白い?」


 「普通」


 (なんだ、この人。)


 今日は雨だから空はあんまり見てない。少しつまらないから。


 でも、なんだか凄い遠回しに空をバカにされたみたいで、少しイラッとした。


 「雨なのに?」


 「うん」



 雨は嫌いだけど、雨にもいいところはある。


 溜まった水溜りに落ちて飛ぶ雨。

 ぽたぽた、と屋根から落ちてくる雨。

 水溜りを車が通ってざあっと飛ばされる雨。

 音もいい。


 でも何より1番いいのは、雨上がりの空だ。

 あれは、雨上がりにしか見れないから憂鬱な雨でもその先を考えたら少し楽しくなる。



 「ふーん物好きだね、葵ちゃんって」


 「そうだね」


 物好き、と言われるのは慣れてる。だから、大体いつも相手に納得する応え方をする。


 すると、大体の人はびっくりする。


 そらそうだ。嫌味で言ったのに受け入れられちゃ、調子狂うに決まってる。


 案の定、坂本も少し目を開いた。


 「えっ、びっくりしないの?」


 「何が?」


 びっくり…?物好きと言われて?それって
「物好きって言われるなんて…!」ってこと?


 ていうかびっくりしてるのは坂本じゃん。


 「え、俺いま、葵ちゃんって言ったんだけど?」


 「はあ、」


 全く気にしていなかった。でも、なんで葵ちゃんと呼ばれてびっくりするのだろうか…


 「えー!大体の女子は俺にちゃん付けされると喜ぶんだけど?!」


 「とんだナルシストなんだね。」


 「おいこらそこ!坂本うるさいぞ!」


 「えっ?!え、あ、すみません…」


 (先生に注意されたらもう話しかけてこないだろう。勉強するフリでもしとこ。)


 「ねえねえ、俺ってナルシスト…?」


 なんか、急に話し方とか変わった…?


 いや、気のせいかな。小声で話してるせいかも。


 それにしても、ナルシストって言われたことないのかな。


 余程自分に自信がおありなのね。


 「ねえねえ、無視しないでよっ」


 「傷付いたならごめんね。そう思ったから口にしただけなんだけど。」


 「えーうそーショックー」


 全然ショックを受けてるように見えないのだけれど…


 「案外葵ちゃんって毒舌なんだね」


 と、笑いながら怜が言ってきた。


 毒舌…か


 私はただ単にこれ以上話したくないから冷たい対応をしているのだけれど…


 毒舌とはちょっと違う気がする…


 けど坂本からしたら毒舌なのか、


 「あなたがそう思ったのならそうだよ。」


 さっきと同じように相手の言ったことを納得して、それを自分の口から言う。


 「いや、毒舌ではないか」


 「?」


 「どっちかっていうと、あれだね、辛辣」


 どちらもあまり大差ないと思うけど…


 確かにどっちかっていうと辛辣な方が正しいのかもしれない。


 調子のきつい言い方が辛辣で、辛辣な言葉を使うのが毒舌。


 どちらも印象最悪だね。


 「うん。そうだね。」


 「まーた否定しないー」


 否定しないのが効果的なんだよ。と言ってやりたい。


 「否定した方が反応が面白くてモテるよ?」


 最低だ…モテたいとか思ってない。


 すぐ恋愛に結びつけられるのは本当に困る。


 「そうなんだ。」


 「うへー冷たーい」


 「あのさ、もういいかな?ちゃんと授業受けたいんだけど…」


 いつも空見て授業なんてまともに受けてないのに、笑


 「あ、ごめん、」


 少し申し訳ないことしたかな…?


 でも今日の授業はややこしそうだからついでにノートとっておこう。