毒吐き幼なじみはときどき甘い。





体育倉庫からボールを入れるカゴを持ってくると、ボールを持った人たちがカゴにどんどんボールを入れていく。



私は転がったまま放置されてたボールを拾っていたら


ひょい、と誰かにボールを奪われた。




「手伝う」



「雪森くん…」




雪森くんは軽々とボールを抱えて、カゴにしまってくれた。




「ありがとう、ゆきくん」



「気にしないで。
これ、あとは倉庫に戻せばいい?」



「うん」




気づけばもうボールは全部片付いていて、雪森くんがカゴを倉庫の方へ運んでくれる。



私はまだ出しっぱなしになっていたスコアボードを持って、雪森くんについて倉庫に入った。







「ありがとうゆきくん、助かったよ」



「当番って、一人じゃないだろ。
なんで他のやつはなにもしねーの?」



「……みんな、すぐ帰っちゃうから…」




雪森くんと喋ってる間に、



急に頭がクラクラしてきた…。




「千花ちゃん?」




雪森くんの声が聞こえたあと、


倉庫の外から、女の子の声がした。



「雪森くん、さっき倉庫入ってかなかった?」

「ほんとー?」



「……!」




聞こえた声に雪森くんが反応して、



私の腕を引っ張って、物陰に隠れた。




「いないじゃん」

「もう帰っちゃったかなぁ」




女の子たちは倉庫に入ってくることなく、



ちょっと中を見回してから、すぐにいなくなった。








「……いなくなったかな」




雪森くんがはぁ、と小さく息を吐いた。




「…巻き込んでごめん。
あーいうの、苦手なんだ」




そういえば昴くんが言ってたな。
雪森くんは女の子と話すの苦手だって。


あんなの、昴くんがテキトーに言っただけだと思ってたけど、間違ってなかったんだね。




「…モテるのも大変だね」



「モテてんの?俺」



「え…」




気付いてないんか?




「話したこともない人なんだけど」



「…だから、話してみたいんじゃない?」



「そういうもんなのか」




へぇ〜…と雪森くんが呟いた時。





───ガチャン。




「「え?」」




嫌〜な音が倉庫に響いた。







え、と…




「やばそうな音、した?」



「嫌な感じがするね…」




まさかとは思うけど…



鍵閉められたりしてない…よね?




雪森くんがドアの方に近づいて開けようとするが。




「……」




ガチャガチャとドアを動かしてる音がするけど、その扉が開くことはなかった。




「……閉じ込められたっぽい」



「ゆきくんが隠れたりするから、
誰もいないと思われたんじゃないかな」



「そこまで考えてなかった…ごめん」




閉じ込められたのはもうどうしようもない。



まだ学校に残ってる人は多いはず。きっと、誰かが気付いて来てくれると思う…。







誰かに連絡しようにも、スマホは教室だ。


しかも、助けを求められるような友達もいない…;




「誰かに連絡……

……って、俺スマホ教室に置きっぱだ」



「私も…」



「誰かが来てくれるのを気長に待つしかないな」




いつもなら部活があるはずだけど、


今日はないって、先生言ってなかった…?




「本当に来てくれるかな…」



「きっと大丈夫だよ。
せっかく2人でいるんだから、楽しく話でも…」




雪森くんが明るい雰囲気にしようとしてくれてるのに、


突然視界がぐわん、と揺れて、その場にしゃがみ込んだ。




「千花ちゃん?
どうした?」



「……気持ち悪い、かも」



「えっ」



「寒い…」




倉庫の中は外よりも寒い気がする。




「のど…」



「え、なに?」



「喉…渇いた…」








昴くんもらったスポーツドリンク、飲んどけばよかった。



はぁ、と後悔してる間に、


雪森くんが私の前にしゃがんで、私のおでこに触れた。




「あつ…。熱あるじゃんか」



「……ねつ…」



「なんで気付かないかな。
バカじゃないの」




雪森くんの怒ってる声がする。



…バカって言われた。雪森くんに。



昴くんになら言われ慣れてたけど…そっか、私本当にバカだったんだなぁ。




「クソ…だったら早く開けてもらわないと」




そう呟いた雪森くんは


ポケットからスマホを取り出して、誰かに電話をかけた。



……あれ…さっき、スマホは教室って言ってなかった…?



なんで嘘ついたんだろう、なんて、考えるのもしんどくて。



電話の向こうの誰かと話してる雪森くんの声を聞きながら、目を閉じた。







*昴side




「……あれ?」




放課後になって、いつもと同じように天の教室に来たのに、教室に天はいない。



おまけに、千花もいない…。



なんか、嫌な予感すんだけど。




「なぁ」



「はい?」



「天と…丸岡、どこにいるか知ってる?」




教室にいた女子に聞いてみると、「わかりません」とだけ返された。



天のことだけ聞けばいいのに、千花のことも聞いたからか、不思議そうな顔をされた。




俺と千花が幼なじみであることは、あんまり知られてない。



知られたくないから。



いや…俺が知られたくないわけじゃないんだけど、



千花が嫌がるから。







『昴くんと仲良いなんて思われたくない。
幼なじみじゃなければよかった』




昔、千花に言われたことを思い出して、はぁ…と息を吐いた。



あの日から、千花にとって俺は、『大嫌いな人』になったんだと思う。



だから貫いてやってんだよ。『大嫌いな人』をさ。



死ぬほど嫌われたら、俺も千花を嫌いになれるって思ったから。



でも、そんなの無理だった。




──ブーッ、ブーッ。



昔のことを思い出していたら、突然スマホが震えて現実に戻された。



……天から電話?



カバンは教室にあるのに、スマホだけ持ってどっか行ってんのか?









幼少期を知ってるからか、俺は天に見下されてる。



電話をかけてくるなんて珍しいことだ、って思いながら、すぐに出るのは悔しくて、しばらくスマホの画面を凝視した。



……いつも俺のこと見下してるからだよ、バーカ。



ヘッと心の中で笑って、何コールかしてからようやく俺は応答ボタンを押した。




「もしもし」



『悪い昴、
体育倉庫の鍵持ってすぐに来て』



「は?
なにどういうこと?」



『閉じ込められた。体育倉庫に。
千花ちゃんも一緒』




……は?




「閉じ込められたって…2人で?」



『そうだよ。んなことどうでもいいから早く来て。
千花ちゃん、熱があるんだ』




天の言葉を聞いて、すぐに鍵を借りに職員室に向かって走った。