「べつにいいけどね。
つーか、かわいいと思われてたのか」
「あの頃はみんなかわいいと思ってたけど」
「じゃあ、
昴のことも俺と同じくらいかわいいって思ってたの?」
突然私の前に移動して、ズボンのポケットに手を入れながら私を見下ろす雪森くん。
その表情は、なんだか少し…拗ねているように見えた。
「……あの頃は、思ってたかも」
「……そうなんだ」
「でも、今の昴くんは全然かわいげないし、
かわいさの“か”の字もないくらい嫌い。大嫌い」
あの頃の昴くんは、
もうこの世から消えてしまったんだ。うん。
「……そうなんだ。
じゃあさ、
俺と昴、
どっちが好き?」
「ゆきくん」
「即答!?」
え、当たり前じゃない?
昴くんのことが嫌いって話したのに、どこに悩む要素があるというのか。
「……昴とは、ずっと一緒だったんじゃないの?」
「小学校中学校も一緒だったけど、
クラス違う時もあったし、ずっと一緒ではないかな」
たしか小学校では2年くらい…中学では2、3年の時はクラスが違ったな、と頭の中で考えながら指を折り数える。
だけどべつに、なりたくて同じクラスだったわけじゃないし、
同じ学校だったのだって、一緒にいたかったわけじゃない。
好意とかではなく、
ただの、腐れ縁ってやつだ。
「……じゃあ、
高校一緒なのも、偶然?」
「え……あー…偶然、だと思うけど…」
私は昴くんと同じ高校なんて嫌だった。
だから昴くんが来ないだろうってくらいの場所とレベルの高校を選んだのに。
偶然一緒、なんてこと、あるんだろうか。
「昴くんがもし、受験前に私の志望校を知ってたなら、偶然とは言えないのかも」
「昴が追いかけてきたってこと?」
「いや、あくまでそうかもってだけで!
本当にたまたま偶然かもしれないし」
私を追いかけてきた、なんて言ったら、「自惚れんな」って昴くんに殺される!
仮に偶然じゃなくて、本当に追いかけてきたんだとしても、私をおもちゃにするためだ。
昴くんは私が嫌いだから。
私が昴くんのいない場所で平和に暮らすのが、彼は嫌なんだと思う。
「もし昴くんが私がいることを知ってて選んだとしても、
私を監視するためじゃないかなー」
「は?それヤバいでしょ。
一歩間違えたらストーカーじゃん」
「あ、いや…!
昴くんはそういうつもりじゃないと思いますし…」
あんまり憶測で喋っちゃダメだ。本人にバレたら絶対殺される…!
「色々言ったけど、ただの憶測だし、
同じ高校なのは、たまたま偶然だよ」
せっかく、雪森くんの中で“弱っちいヤツ”から“友達”になれたのに
昴くんの知らないところで下げるようなこと言ったら、昴くんが可哀想だ。
「そ、それよりゆきくんは?
高校も海ちゃんと一緒なんて、仲良いね」
もう昴くんのことを話題にするのはやめようと話をそらした。
「まぁ、喧嘩もするけど、
仲良い方なんだと思う」
「仲良さそう」
「っていうほど仲良いかなぁって思うけど」
「ぷっ、どっちなの」
笑いながら応えたら、
雪森くんがピタ、と足を止めた。
「どうしたの?
遅刻するよ?」
「……あー…うん」
またゆっくり歩き出した雪森くんが、
「…笑った」って小さく呟いた。
「え、ごめん、気分悪くした?」
「ううん。
笑ってるとこ、あんま見たことなかったから」
「そうかな?」
あ、でも友達もいないし、
笑ったりすること、あんまりなかったかも。
「千花ちゃん、いつも一人でいるから、
誰かと楽しそうに話してるところ、あんまり見たことないな」
「あー…私友達いないから」
「それ、ほんと不思議なんだけど。
昔は誰とでも仲良く話してたじゃん。
友達つくるの苦手じゃないだろ?」
「……」
そうだった、けど…。
「……いいよ、友達なんて」
「千花ちゃん…?」
不思議そうに首を傾げる雪森くんに、
「早く学校に行こ」と声をかけて、スタスタと早歩きした。
『俺と昴、どっちが好き?』
そんなこと、聞かないで。
友達が出来ないことも含めて、昴くんのことが大嫌いなんだから。
「……は?」
学校に着くと
玄関で靴を履き替えてる昴くんに会った。
珍しい。
いつも私より家出るの遅いのに。今日は早く来てたんだ?
「はよ、昴」
「……はよ。
…っじゃねーんだけど!
は?え?なにしてんの?」
昴くんと雪森くんが話してる。
昴くんが、なんだか不機嫌だけど。
「なにしてるって、なにが?」
「なんで千……コイツと一緒に来てんだよ」
私を睨みながら私を指さす昴くん。って人を指さすなコラ。
「べつに。
邪魔者がいない時に話がしたいなって思ってさ」
「は……。んだよ、邪魔者って。
俺のことかよ」
「そうだけど。
俺は昴と違って久しぶりに千花ちゃんに会ったからさ、積もる話もたくさんあるわけよ」
積もる話…?そんな大したこと話してない気がするけどな。
「……おまえ…
俺があの時と同じだと思うなよ」
「えー、なにが?」
クスクスと笑いながら靴を履き替えてる雪森くんと、イライラが増してるような気がする昴くん。
偉そうなこと言っても、やっぱり昴くんは雪森くんに敵わないんだな。
「……いつまでも女の背中に隠れてるヤツじゃねぇってこと。
…で、おまえはなんで天と一緒に来てんだよ」
2人の会話を聞き流していたら、
突然頬をぎゅ、っとつねられた。
「いひゃい」
「おまえ、ホイホイ男についてくタイプだったか?えぇ?
昨日から、“ゆきくん”ってわかった瞬間、尻尾振って喜んで。きもいんだよ」
……は、
はあ!?!?