「千花ちゃん」
お店を出た時、さなちゃんに呼び止められた。
「なに?」
「今まで、本当にごめんなさい。
それから、ありがとう」
「え…」
「こんなわたしと、仲良くしてくれて」
にこ、と笑うさなちゃんは、少し悲しそうに見えた。
……悲しそうなのはきっと、今がつらいから…だよね。
「大丈夫だよ、さなちゃん。
さっき私に言ったように、
不満なことは全部言えばいい。
きっと、そんなさなちゃんを救ってくれる人はいる」
「……」
最初に話しかけてくれたのは、さなちゃんの方だった。
私よりもきっと、友達は上手くつくれるはず。
「…私はもう、さなちゃんと関わるつもりはないけど、
さなちゃんなら大丈夫」
そう言ったら、深く頭を下げられて。
「ありがとう千花ちゃん
……大好きだったよ。
さようなら」
顔は見られたくなかったのか、下を向いたまま、
少し震えた声がそう言った。
そしてそのまま、さなちゃんは走り去っていった。
「……さぁ〜てと!
あたしたちも帰りますかね〜」
わざとらしく口笛を吹いて、ゆきくんと歩いていく海ちゃん。
腕を掴まれ引っ張られていくゆきくんが、突然こっちに振り向いて。
「千花ちゃん
……お幸せに!」
それだけ言ったら、2人とも手を振って歩いていってしまった。
「千花」
「…ひゃあ!」
昴くんの声がすぐ耳元でして、ビックリして変な声が出てしまった。
……恥ずかしい…。
でも昴くんは何も言わず、
「……ん」
「……」
私に向かって手を差し出すから
いいのかな?って思いながら、その手に自分の手を重ねて。
痛くはないけど、ぎゅ…と昴くんが握る手に力を込めるから
ドキドキしながらその手を握り返して、昴くんの隣に並んで歩き出した。
無言のまましばらく歩いたけど、繋いだ手は離れないまま。
もう家に着いちゃう。そしたらこの手は離れてしまう。
次…繋げる時は来るのかな。
昴くんは、私のことどう思って…「千花」
頭の中でぐるぐる考えていると
いつもより甘い、昴くんの声が響いた。
「……千花は、
いつから俺のこと好きなの?」
「え……と、
小学生とかから、かも…」
「……俺は幼稚園の時から特別だったけど」
ずっと私の方を見ないで、前を向いて呟く昴くん。
でも、昴くんの頬が赤く染まっているのは、見えてしまった。
「…って、えっ、幼稚園の時から!?」
「じゃなきゃ千花のまわりうろちょろしねぇだろ」
……あれは、友達作るの苦手で、ただ寂しかったからじゃなくて?
昴くんは最初から……
「ってかおまえ、
天に告白されたんじゃなかったのかよ」
「……あ゛っ」
……やべぇ!忘れてた!!!!
返事してないのに!しかも前向きに考えるって言ったのに!
……雪森くんの目の前で、昴くんに告白した。
雪森くんをフッたも同然だ。
あんなタイミングで、なんて…サイテーすぎるな!?私!!
「……天のことは、好きじゃねぇのかよ」
「友達としては好きだけど、
恋愛感情じゃないよ。
……昴くんのことが好きって言ってるんだから」
ちゃんと伝わってないのかと思ってもう一回“好き”って言ったら
「んぶっ」
いきなり昴くんに抱きしめられて、昴くんの胸に顔をぶつけた。
うっ…鼻痛…「俺も好き」
頭の上から降ってきた声に、きゅうっと胸が締めつけられる。
昴くんの声が今まで聞いたことないくらい甘くて…嘘じゃないって言ってるみたい。
「……そ、そうですか…」
「うん」
「あ……りがとう?」
こういう時
何を言えばいいの!?
「千花」
「はいっ…」
「今まで、ごめんな」
「……さっきも聞いたから、もういいよ」
そんな何回も謝ってくれなくても…
そこまで鬼じゃないし、私だって悪かったし。
「…千花が嫌がらせされてるのを知って、
その時千花が、『俺と幼なじみじゃなければよかった』って言ったから、
俺が一緒にいなければ、千花への嫌がらせもなくなると思った」
「……うん」
「ほんの少し離れようって思ってただけだったのに、その時から千花は俺のことめちゃくちゃ嫌ってたよな」
「……それは…」
「…うん、俺が離れようとしたから、
あんな態度だったんだろ?
気付かなくてごめん。離れた方が、千花のためだって勝手に自分で思ってた」
気付いてくれない昴くんが嫌いだった。
離れていこうとする昴くんに、嫌われてるんだって思わされた。
だから私も嫌いになろうとしたの。
「俺が一番そばにいてあげないといけなかったよな」
「……ん…」
「……わかってあげられなくて、ごめん…」
ちゃんと言葉にしなかった私だって悪い。
昴くんばかり責められない。
「昔のことは、もういいから…。
……昴くん」
「ん?」
「今でも……離れた方がいいって思ってる?」
昴くんの腕の中でポツリと呟くと、
バッと肩を掴まれて、昴くんの目があった。
「思ってない!
……っていうか、離れた方がいいかもとは思ってたけど、
『離れたい』って思ったことはないから」
「……!」
「だから…
俺がもう、離したくないです…」
語尾がだんだん小さくなっていく昴くんは、顔が真っ赤で。
つられて私も、顔に熱が集まった。
「……昴くんって、昔からカッコつかないね」
「…うるさい」
「でも、そういうところも好きだよ」
きゅっ、と手を握ると
昴くんが不服そうに唇を尖らせた。
「……千花は
俺のことナメすぎ」
「え?なめてないよ」
「バカにしてる。
いつまでも子ども扱いすんな」
「してな……ん」
してないって言い終わる前に
昴くんの唇によって口を塞がれた。
「……え…」
「……俺だって男だからな」
『油断してっとまたするぞ』って言う昴くんに