毒吐き幼なじみはときどき甘い。




え……



えぇぇえええ!!?!?





「え、ゆ、ゆゆ、ゆきくんは、
私の、こと…」



「好きだよ。
…って、行動で示したきたつもりなんだけど」



「……!!」




これって、告白されてる…んだよね?



……初めて、男の子から好きって言われた。



……のに。




「……」




もっとときめくと思ってた。


もっと浮かれると思ってた。



案外、薄情な人間なんだな、私って。




「……ごめん、ゆきくんのことは…」



「あーー待って。まだ返事しないでよ。
……わかってるから、千花ちゃんが俺のこと好きじゃないことは。

でも、昴とあの女の子が一緒にいるのは気持ち悪いんでしょ?
だから…俺の隣が安心するなら、
いつでも居ていいから」







『そういうことだから、告白のことは気にしないで』



雪森くんはそう言って、私が悩まないようにぽんぽんと背中を撫でる。



そういうところも…優しいんだよなぁ。




「……ありがとう」



「うん、でも、
前向きに考えてくれたら嬉しい。
気にしないでとか言っといて、矛盾しててごめん」



「ゆきくん…」



「いつまででも待ってるからさ。
10年くらいずっと片想いしてるから、待つことくらい余裕だし」




10年って…



もしかして、幼稚園の時からずっと私のことを?



そんな気持ちを今伝えてくれたのに、



たった1分くらいで返事しちゃ、いけないよね。




「ちゃんと、」



「ん?」



「ゆきくんのこと…ちゃんと考える」








『前向きに考えるよ』って伝えたら



雪森くんはニッと歯を見せて笑った。




「じゃあとりあえず今日は帰ろう。
家でゆっくり休んだ方がいいでしょ?」



「あ……うん」




告白されたから、


雪森くんと一緒にいるのも、少し気まずい。



きっと雪森くんもそう思ってて、帰ろうって提案してくれたんだ。



見た目は派手で怖いけど、やっぱり雪森くんは優しい人だって、しみじみ思った。









───……




「ねぇ、千花ちゃんってさ」



「ん?」



「昴くんのこと好きなの?」




ツインテールを揺らして歩く小学生の女の子が、持っていた給食当番のエプロンの袋を私に軽くぶつけてきた。




「……え…」



「わたしさ、
千花ちゃんに“昴くんが好き”って言ったよね?
どうしてもっと、気を遣ってくれないの?」




『友達なら応援するものじゃないの?』と女の子に睨まれる。




「応援…してるよ?
でも、決めるのは昴くんで私じゃないし…」



「でもさ、わたしが相談した時点で、
もっと昴くんに対する態度を改めようとか思わないの?」



「でも、ずっと“幼なじみ”のつもりで接してるから、改めるって言われたって…」



「“幼なじみ”にしては、近すぎるって言ってるの!」







突然怒鳴られて、思わず『ごめん』と口からこぼれた。




「悪いと思ってるなら、わたしと昴くんが話せるように協力してよ。
わたしたち、友達でしょ?」




目の前のツインテールの女の子が笑った瞬間、



その子が、小学生の男の子に変化した。




「……え…」



「千花ちゃん」




ニコ、と笑う男の子。



そっと差し出される手。




私はその手を取ろうと手を伸ばす。



するとその手を、横からギリ…と強く掴まれた。




『友達でしょ?』




そう頭に声が響いた瞬間



男の子の手をパシンッと叩いた。




『昴くんと仲良いなんて思われたくない。
幼なじみじゃなければよかった』




そんな私の声が大きく聞こえた時



ハッと視界に真っ暗な部屋が映し出された。







「はぁ……あ…」




………ゆ、夢?







……今日、さなちゃんを見たからか



昔の夢を見たな…。



嫌な夢だ……。




はぁ…夜中に目が覚めてしまった。今何時?



スマホの時計で確認しようと画面をつけたら、眩しすぎて余計に目が冴えてしまった。



幸いにも明日は土曜日。休みでよかった。



学校だったら、絶対眠くて仕方ないと思う。




目が覚めてしまったので、ベッドからおりてカーテンを開ける。



窓の外には昴くんの家があるから月は見えないけど、月の光で外は少し明るい。



夜風にあたろうと、カラカラとゆっくり窓を開けてベランダに出た。



うっ…外はちょっと肌寒い。







腕をさすりながら風を受けていると、


向かいの昴くんの部屋のカーテンが揺れていることに気付いた。



網戸は閉まってるけど、窓開けてるんだ?



昴くん、寒くないのかな?



こういう時しっかり体温めないから、風邪ひくんだよ。



また風邪ひいても知らないからね。



そんなことを、昴くんの部屋の揺れるカーテンを見ながらぼんやりと思う。




……知らない、か。



私、昴くんの何も知らないな…。




……なんでさなちゃんと仲良くなってるのか



さなちゃんを好きになったのか、それとも前から好きだったのか…



昴くんが何を考えてるのか…


私には昴くんの気持ちが、わからないよ。







「……」




いやまぁ、昴くんだって私の気持ちなんてわからないし、お互い様だよ。



……でも



昴くんの気持ちがわからないのも、


昴くんが私の気持ちをわかってくれないことも、



すごく……嫌だ。




「………さむっ」




嫌な気分も相まって、風が冷たく感じて。



大きな音を立てないように、ゆっくり部屋に戻った。




窓を閉める前に




「……昴くん…」




思わずそう、漏れてしまって。



ハッとして、窓を閉めて勢いよくカーテンを閉めて遮断した。















「……かー。
千花ー?」



「……ん…」



「千花ー、起きてるー?」




一階からお母さんの声が聞こえて目が覚めた。



夜中に目が覚めてなかなか寝付けないかと思ってたけど、あの後すぐ寝ちゃったんだな。




「起きてるよー」




ベッドからおりて、下に聞こえるように部屋のドアを開けて返事をした。




「ごめん千花、
おばあちゃん家行ってくれない?」



「なんで?」



「お父さんが会社で柿をいっぱいもらったらしくてねぇ。
食べきれないし、おばあちゃん柿好きでしょ?だからあげようと思って」




だからって、なんで私が…。




「……わかった。
行くよ」