「ごめん…、雪森くん」
「怪我がないなら別にいい。
次から気をつけろよ」
ぶっきらぼうにそう言って、雪森くんはスタスタと歩いていった。
「ひぇー…びっくりした」
口から内臓飛び出すんじゃないかってくらい、ビビって全身が震えたよ…!
雪森くんは、同じクラスの男の子。
話したことはほとんどない…けど、目立つから知ってる。
目力はあるし、明るい茶色の髪の根本は黒くて、いかにもヤンキーって感じ。
でも、肌は綺麗だし、鼻は高いし、唇は薄いし、神パーツが集まったみたいな顔。
近寄り難い独特のオーラを纏ってる(感じがする)からまわりにあまり人は寄らないけど、
女の子は雪森くんにお近付きたいになりたいんじゃないかな?
その証拠に、さっき昴くんに話しかけてた女の子、「雪森くんも誘って」って言ってたし。
雪森くんに近付くために、フレンドリーな昴くんに近付いてる女の子も少なくない。
昴くんは雪森くんと仲良いから。
昴くんを利用してる女の子もたくさんいるってこと。
私からしたら、そんなこと知らずに女の子に言い寄られて鼻の下伸ばしてる昴くんは、とても滑稽で笑えるけどね。
……しかし、なんで昴くんと雪森くんが仲良いんだろう?
雪森くんがケンカ強いって噂もあるし、もしかして昴くんはそれに取り入ろうとしてるとか?
そう考えたら、昴くんってすごくダサい。
私のことバカにする前に、自分の性格直した方がいいんじゃないの?
……って、だからそんなこと、思うだけで口に出来ないけどさ。
はぁ、とため息をついてまた廊下の端を歩いて、ハッとした。
『真ん中歩けよ』
雪森くんに言われたことを思い出して、ちょっとだけ真ん中寄りで歩く。
昴くんには嫌な顔されそうだけど
雪森くんが真ん中歩けって言ったんだもん。雪森くんの言うこと聞いた方がいい。
昴くんの言うことは、理不尽だもん。
地味なやつは廊下の端を歩け、なんて。何様のつもりなのか。
やっぱり昴くんはもう少し、自分の性格を見直した方がいいと思う。
「天、
飯食うぞ」
昼休みになると、すぐに私のクラスにやってくる昴くん。
あまりにも早すぎて、昴くんが教室に来る前に私が教室を出れたことがない。絶対に顔を見てしまうのだ。
「毎日こっち来なくても。
俺がそっちの教室行くって言ってんのに」
「いいじゃん別に」
「はぁ〜?
天が行くって言ってんだから大人しく来てもらえばいいじゃんよ〜。
毎日昴の早さについてくの疲れるし〜」
「天のクラスの方が女子多いし、こっちがいいんだよ」
「下心丸出し男じゃねーか!」
人の教室に来たと思ったら、あの金髪男(名前知らない)ギャーギャーうるさい。
人にぶつかってきて謝りもしない迷惑男め。
昴くんと金髪は同じクラスだったはず。だから二人してこっちに来るより、雪森くんが二人のクラスに行くって言ってるのに。
なんでそれを断るんだろう。自分たちが迷惑をかけてる自覚がないのかしら?
たしかに昴くんのクラスに比べて、私のクラスは女子が多い。
でも、昴くんに見合うギャル系女子は少ない。
真面目で大人しい子ばかり。だから昴くんなんかに教室にいてほしくないんだよなぁ。私も含めて。
「天、今日の放課後暇?」
「今日はなに」
「カラオケ」
「やだ。面倒」
「だよなぁ」
わかってたよ、と言ってケラケラ笑ってる昴くん。
もし雪森くんがOKしてたら、女の子みんな雪森くんに行っちゃって、あなた立場ないでしょうね。
断ってくれてよかったね、と心の中で笑いながらお弁当を持って教室を出た。
いつもお昼を食べるところは、学校の食堂。
1年から3年まで利用しているので、いつも人は多い。
どこか空いている席がないかと探していたら
ドン、と誰かにぶつかってしまった。
「あっ、すいませ…」
「………」
目の前には、私を見下ろす女の子。
茶髪のウェーブがかったロングヘアー。
スカートは短くて、手首にヘアゴムやブレスレットをつけてる。
そして耳にピアス。口にもピアスしてる…。
もしかしてすごいヤンキーなのでは?と思って視線を落とすと、スリッパの色は私とお揃い。つまり同じ学年。
昴くんといい、金髪男といい、
なんでこの学校はこんな見た目の人が多いんだろ。そしてなんでそんな人とぶつかってしまうんだ私。
う゛…目、合わせられない。
「……あっち」
「……え?」
「あっちの席、空いてるよ。
あと、ぶつかってごめん」
その女の子から発せられたであろう声は、ぶっちゃけその容姿とは一致しないほど、可愛くて。
「あ、ありがとうございます」
あんまり怖い感じがしなくて、素直にお礼を言えた。
ペコリと頭を下げてから、小走りで教えてくれた方へ向かった。
*
「あ……」
「あれ?
海、こんなとこで突っ立ってどうしたの?」
「せっかく話しかけれたのに、
逃げられてしまった…」
*
空いていた席にお弁当を置いて、腰を下ろす。
隣には、友達と大きな声で喋っている先輩らしき人。
いつもではあるけど、食堂での食事はやっぱり落ち着かない。
昴くんと顔を合わせることがなければ、絶対教室の自分の席で食べるのにな…。
そんな、叶いもしない願望を抱きながら、黙々とお弁当を食べる。
隣の先輩がうるさくて落ち着いて食べることも出来なくて、
早くこの場を去ろうと急いで食べることに必死になってしまっていたら、味わってる余裕なんてなく。
最後に食べた甘いたまご焼きの味しか残ってなかった。
お弁当を食べ終わって、教室に向かって歩いていると。
「うぉっ!」
「わっ!」
曲がり角で、前から来た人とぶつかりそうになってしまった。
「……雪森くん?」
「ん?
あぁ…同じクラスの……」
紡がれないその続きに、
名前覚えてないんかい、と心の中でツッこんだ。
それより。
「下見ながら歩いて、どうかした?」
雪森くんは床をキョロキョロ見ながら歩いてる。
なにかを探しているみたいに。
「あー…べつに。
……って、あ!!」
「!?」
急に雪森くんが大きな声を上げたかと思ったら、
私のブレザーのポケットから飛び出していたストラップをグイッと引っ張られた。