毒吐き幼なじみはときどき甘い。




「え、どど、どうしたの!?」



「どうしたはこっちのセリフだバカ…
……なんで、優しくすんだよ…」




ずっ、ずっ、と鼻をすすってる昴くん。



や…ほんとどうした?



熱で頭おかしくなっちゃったのかな…。




「す、昴くんだって、
一昨日は急に優しかった」



「それは、千花が弱ってたから…」



「……私も同じだよ。
弱ってる昴くんに冷たくするほど、鬼じゃないから」



「……俺のこと嫌いなのに…?」




昴くんが、熱でとろんとして、涙で濡れた目で私を見つめる。



なんつぅ色気……じゃなくて!




「……だ、だって昴くん、
いつも風邪ひくとしんどそうだし、
おばさんとおじさんもいつもいなくて一人でしょ?
…嫌いとはいえ、幼なじみとしては放っとけないっていうか…」







……あれ?



色々言葉を並べたけど、



幼なじみって、看病しなきゃいけないわけじゃなくない…?



それこそ、友達の雪森くんとか、


たとえば昴くんの……“彼女”とか。



私じゃなきゃいけない理由はない気がする。




「……ごめん間違えた!
私が放っとけなくても、昴くんからしたら迷惑なのに、勝手なことした!
やっぱりこれ持って帰る…!」




ガサッとコンビニの袋を抱えて帰ろうとしたら



熱い手に腕を掴まれて、動けなかった。




「……帰んなよ」



「……!
でも…」



「『迷惑』なんて、言ってないだろ」







そのまま、ゆっくり腕を引かれて。




「え、…ちょちょちょ!!」



「……なに」



「なんで家に引き込んでいく…!?」




熱で弱ってるはずなのに、すっごい力強っ!!




「……迷惑じゃないから、」



「……?」



「……そばにいてよ」




熱で赤く染まる昴くんの顔は



いつもみたいなイジワルじゃなくて。




「………うん」




甘えるように首を傾げる昴くんには、逆らえなくて…



昴くんの力に身をゆだねるように家に入って


パタンとゆっくり玄関の扉が閉まった。









そのまま肩を貸して昴くんを支えて、部屋まで連れて行った。



昴くんの部屋は私の部屋の真隣にあるけど、いつもカーテンが閉まってたし、私も見ることがなかったから、知らなかった。


昔、遊びに来てた時と、全然違う。



いつも私がピンク、昴くんが水色の、お揃いのものを買うことが多くて、


昔の昴くんの部屋は、全体的に水色っぽかったのに。



今は、紺や黒の、暗い色が多い部屋。



昔の昴くんが、もうそこにいない気がして、



少し、寂しくなった。




「……もう肩、大丈夫。
ごほっ…これ使っていいから
ここに座ってろよ」




昴くんがベッドの傍らに置かれていたクッションを渡してくる。



クッションはとってもふかふかで、座り心地も良さそう…。







……って、



いいのかこれ!!?




「あの、昴くん」



「……なに、喉痛いからあんまり喋らせんな」



「…あ、ごめん…」




さっきの甘えたな声はなんだったんだ。



またいつもの、冷たい毒吐き塩対応昴くんになっちゃった。




「……ちょっとくらいは返事する」



「え?」



「…なんか聞きたかったんじゃねーの?
簡単に答えるから」




ベッドに入った昴くんは、



ゴロンと横を向いて、私のTシャツの裾をキュッと摘んだ。




「……!」




……う゛っ…。



今、不覚にもキュンとしてしまった…。







甘えたな昴くんは、


まるで、昔の昴くんみたいで……




「……昴くんって、



──彼女いるの?」




もしもそれを



私以外の誰かにしてるとしたら。




きっとその人は



昴くんのことを、好きになっちゃうと思う。




「………いねぇよ」



「……そ、か」



「……いてほしかった?」




上目遣いで私を見る昴くん。



私はキュッ、と小さく下唇を噛んだ。




「……い、
いた方が、いいよ」



「……どうして…?」



「こ、こういう時、
私なんかよりも、好きで好きでたまらない女の子が来てくれるんだよっ?
……いた方が、絶対いいよ」



「……だったら、
彼女なんていらない」







私のTシャツから手を離した昴くんは



少しだけ、腕を伸ばして。




「手…繋いで?」



「……は!?」



「俺の手、握っててよ…」




……どうしたんだろう。



今日の昴くんは、別人みたい。




部屋は昔と全然違うのに



目の前にいる昴くんは…昔みたいにかわいい。




「……昴くん、
こういうのは好きな子だけにやるんだよ?」



「……わかってる。
だから、練習…」




ちっとも手を重ねない私に痺れを切らして、



昴くんは強引に私の手を握った。




「……いいって言ってない」



「千花の手…冷たくてきもちいい…」




“千花”って…



いつも“おまえ”とかなのに。



一昨日もだったけど、急に名前を呼ばれるのはドキッとするからやめてほしい。









本当に、熱のせいで頭のネジ飛んでっちゃったのかな、なんて思ってたら


昴くんが私の手を引っ張って、顔に寄せようとする。




「あーーーっ!
こ、こっちの方が冷たいから!」




なにしてんだ!!と思って、それを阻止するように冷たいスポーツドリンクのペットボトルを頬に押し付けた。




「う゛…冷たい…」



「こんな冷たいまま飲んだらお腹冷えちゃうから、自分の体温であっためたら?」



「ぬるいスポドリとかまずいからやだ…」




むす、と唇を尖らせて、昴くんはまた私の手をにぎにぎしてる。



そういえば、


昔も私と手を繋ぐ時は、昴くんのその小さな手によくにぎにぎされてた。



癖……なのかな?







「昴くん」



「……なに?」




昴くんに手を握られたまま、


ベッドの隣にクッションを置いて、そこに座った。




「……早く風邪、治して」



「……千花がいてくれたら、早く治る…」



「冗談ばっかり…」



「あー…でも、
千花にうつしちゃったらやだなぁ…」




うーん…と唸ってる昴くん。



……弱ってるくせに、何言ってんだか。



たぶんうつしたの私だよ。だから昴くんからまたうつったりはしないと思う。



私よりも苦しんでるくせに。そんなこと気にしてる余裕ないでしょ。




「……それ、きっと私のがうつったんだよ。
だから私は平気」



「……そっか。
千花、昔から風邪とか治り早いもんな…」