壊れ物を扱うかのように優しく手をつかんで煇先輩はその場から連れ出してくれた。


『空それ片付けといて』


と煇先輩は私の食べかけのオムライスを指す。


『はっ…どこに行くんだよ』

『どこでもいいでしょー』


空先輩の待てよという焦った声がしたけど、振り返る事が出来ずに煇先輩の背中だけをただ見つめていた。



煇先輩に引っ張られているのに腕は痛くなくて、風に乗って柔らかくて少し甘い香水が鼻先をくすぐる。

掴まれた腕からトクトクと温かい何かが流れてきて、そこだけがすごく熱い。なんでもいいから煇先輩とならどこにでも行きたいという気持ちがした


連れてこられたのは誰もいない体育館裏で


『ここ俺の秘密基地!』


と太陽みたいな笑顔を向けてくれて私もつられて笑ってしまった。自然と離された腕にはまだテヒョン先輩に掴まれている感覚がして腕をさすった。


『花ちゃんは、まだジミンが好き?』


煇先輩は眉を下げて私にそう聞いた。


「……はい、」


好き、大好きすぎて今すぐにでもサラさんから奪ってやりたいほどに本当は大好きなんだ。

なんだか煇先輩には嘘がつけなくて、つい返事をしてしまった。




だけど私は人から奪うなんて、そんなに強くないし、空先輩の幸せが1番だから絶対にそんな事はしたくない。あぁなんか、煇先輩が滲んで見えにくくなってきた。