「先輩…私少し時間が、欲しいです。」


じわじわと空先輩の手の熱が私の手に移り込んで汗ばんできた。

「頑張って消したいんです…」

そう言ったにも関わらず先輩の手の力は強くなる一方だったが

『そう、だよね…』と名残惜しく先輩は力を弱めて、私はスッと手を引いた。





そのタイミングでクラクションが鳴る。


〈おーい、花〜〉

「あ、…では、さようなら空先輩」

『え、待って、だれ、』


また腕を掴まれて行こうとする足を止められた。その時目が合うのは2回目で会った時とは全く違う、何故か怒ってる目をしてきた。



「先輩には、関係ないです…」

「離してください。」

『関係ないって、そうだけど、』


胸がトキメキで止まらなくて、昨日砕け散った心がまた空先輩によって組み立てられていく気がした。どうして先輩がそんな目をするのか全くわからない。

まるで、行かないでって言ってるみたい。


「先輩、彼女いますよね、本当に思わせぶりしないでください…」


そういうと空先輩は掴んでいた手の力をゆっくりと緩めた。空先輩に掴まれていたところから熱が巡ってドクドクする。


『……思わせぶり、か…』


ぎこちなく笑う空先輩はどこか苦しそうで


『引き止めて、ごめんね』そう言って陽炎の濃い方へと行ってしまった。




「……」



ポタポタと落ちる雫がアスファルトを濡らす。空先輩の背中を見続けても振り返る事はない。自分から突き放しておいて、無理にでも私を引き寄せて欲しかったと思う自分が本当に嫌いでわがままだ。


〈ほら、行くぞ〉


お兄ちゃんはただ何も聞かず車の中に入れてくれた。


いつもは流れてるはずの音楽も今は鳴ってなくてお兄ちゃんは無言で車を走らせるだけだった。


信号で止まったときに何も言わずにティッシュを私に渡してくれてもうショッピングモールになんてとっくに着いてる時間なのに、お兄ちゃんの車はずっと走っていた。