「…腫れてないもん。」
〈んーやっぱり、話せないか…?〉
口が乾いてカフェラテで潤した。お兄ちゃんは信用してるしいつも正しい答えしか返ってこないから言いたいけど、何故か言えない。
〈…ま、無理やり聞くもんでもねーか〉
そう言ってお兄ちゃんはまた苦そうなブラックコーヒーを飲み始めた。
そこから特に濃い会話もなかったし別に気まづい雰囲気だなとかそういうのも感じなかった。
お兄ちゃんに一口マカロンをあげたら顔をしかめてすぐにブラックコーヒー口に入れてて面白かったってぐらいで。お兄ちゃんは私からの相談を待つ事にしたようにも見えた。
〈さて、買い物いくか〉お兄ちゃんは席を立った。
外に出ると湿度の高い空気がせっかく冷えていた身体を包み込んだ。陽炎が少し立っていて、近くにある噴水はキラキラしていた。
お兄ちゃんが車を取りに行っている間に『花…?』と今は1番聞きたくない声がして、肩を叩かれた。
『やっぱり、花だ…』
「空先輩…」
ああ、なんで会っちゃうかな
空先輩はやっぱりオシャレでシャツにスラックスを合わせネックレスをしてとてもカッコ良くて、大人っぽい。
私、今顔を見ただけで泣きそうになっている。前まではこうやって休日に会う事なんて一度もなかったのに、どうしてこんな時に限って…。
話しかけてくれた空先輩の髪は少し汗で滲んでいて
『会えて嬉しい』だなんて笑って、また思わせぶりをさせてくる。
「先輩、そういうのやめてください、勘違いします…」
『あ、ごめん…』
すごく空気が気まずくてしんどい…お兄ちゃん早くきてよ、何してんの…。
『ここで何してるの?』
「人を…まってます。」
『そうなんだ…。久しぶりだね』
「はい、」
すごく素っ気ない態度をしていて、私今全然可愛くない。
『……目、合わしてくれないね』
『花、俺たち前みたいに戻れないのかな…少し、寂しいや、』
斜め上から聞こえる空先輩の声は悲しそうにしているけど、空先輩の方にむきたくても向けない。前みたいに戻りたいけど、だけど、何故かできないの。
こんにちはって、素直に笑顔で先輩に言ってやって、振るんじゃなかったって少し後悔させたりとか、そういうのしてみたいけど、できないんだ。
『こっち見て、花…』
空先輩が私の右手をぎこちなく握ってきたって、私は絶対に振り向かない…じゃない、振り向けないんだ。