「少し庭に出ませんか? 今宵は月がきれいですので」

ギルに誘われ、ナタリアは彼とともに花々の香る夜の庭園に向かった。

ギルの言うように、今宵は星屑の散らばる夜空に、大きな満月が輝いている。

ナタリアの一歩前を行くギルの銀髪が、月明かりに煌々と照らされて、見惚れるほどに美しい。

「尚書の仕事はどう? 慣れた?」

「ええ、そこそこは慣れました。私としては、そのような役職より、あなたの家庭教師でいる方が何倍もうれしかったですがね」

「お父様はあなたをいずれは尚書長官にして、最終的には宰相にするつもりなんだと思うわ。ギルはすごく頭がいいもの、頼りにされてるのね。家庭教師よりもずっと名誉なことじゃない」

「さあ、どうでしょうか?」

歩きながら、ギルが肩をすくめる。

「家庭教師は、あなたと一緒にいる時間が長いですからね。ですが政務をつかさどる仕事で忙しくしていれば、こうしてあなたと会う機会が減ってしまいます。まあ、それが皇帝陛下の真の狙いなのかもしれませんけど」

「そんなことはないと思うけど」

娘を溺愛しているリシュタルトなら考えかねないことだが、リシュタルトが帝国の頭脳としてギルを片腕にしたがっているのは事実だろう。

それほどギルは頭脳明晰だからだ。

「少し、座りましょうか」

「そうね」

ギルとナタリアは、花壇の真ん中に位置する噴水の脇に腰掛ける。

サラサラと水の流れる音が、静寂に包まれた闇間に響いていた。

「こうしてナタリア様とふたりで過ごすのは、本当に久しぶりですね」

「ええ。トプテ村から戻ってからずっと忙しかったものね」

改めて、隣で夜空を仰いでいるギルを見る。

久しぶりのせいか、はたまた以前とは見かけが変わったせいか、ナタリアは急に緊張してきた。

(どうしよう。何から話したらいいんだろう)