その日の夜、ギルがナタリアの部屋を訪ねてきた。

トプテ村での事件以降、正体を明らかにしたギルは、リシュタルトの命令のもと、城の尚書として日々仕事に追われ、ナタリアとともにいる時間がぐんと減っている。

「ナタリア様、半月ほどお会いできませんでしたが、お元気でしたか?」

「ええ、元気よ」

彼の銀髪と銀色の獣耳には、いまだ見慣れない。

ギルの本当の名前は、クライド・ギルバート・ブラックウッド。

リシュタルトの異母弟であり、かつてはオルバンス帝国の王子だった。

だが政権争いの際、リシュタルト派に負け、幼かったギルは城を追われた。

ギルは幼いころから獣化能力に長けていたため、リシュタルト派の重鎮たちは、幼い王子が将来復讐をたくらむのを恐れた。

そのため、呪術師に呪いをかけさせ、ギルから獣化能力を奪った。

銀色の髪に黒の瞳を持っていた少年は、呪いのせいで獣人の証である獣耳と尻尾を失った。

それだけでなく、まがまがしい力が災いして、古の悪魔と同じ黒髪とバイオレットの瞳へと変化してしまう。

だがトプテ村でナタリアを救ったあの瞬間、長年彼を苦しめていた呪いが解けたらしい。

ギルは獣化する能力を取り戻した。

銀色の髪と耳、それから尻尾も。

けれどもバイオレットの瞳だけはそのまま戻らなかったようだ。