裏切られたショックから錯乱し、リシュタルトは番である妻を処刑してしまった。

番に裏切られたとき、獣人は理性の錯乱に陥り、ときには獰猛化して闇雲に人を攻撃してしまう。

兄もそのような状態になってしまうのではないかと、ナタリアはヒヤッとした。

だからレオンのために、アリスが真犯人だということは今まで黙っていたのだ。

だが、恐れていた事態が起こってしまった。

不安な気持ちで、レオンの動向を見守る。

ところがレオンは、ナタリアに気づくなり、こちらに近づいてきた。

「お兄様、大丈夫ですか? その、アリスと会えなくなってしまうから……」

「ああ、そうだね。番と共にいられなくなった獣人は心を引き裂かれるような痛みを覚えると言うが、どうやら本当のようだ。だが、僕の場合は内心ホッとしてもいる、不思議な感覚だよ」

以前にギルが、番にも合う合わないがあると言っていた。

レオンはアリスを番と認定したが、性格は合っていないようだった。

そのことが幸いしたのか、それともレオンの能天気な性格が影響したのかは分からない。

とにかく錯乱するほどショックを受けてはいないようで、ナタリアはホッとする。

するとレオンが、ナタリアを見てにこっと微笑んだ。

「きっと、かわいい妹が近くにいるからだろうね。お前のおかげだよ、ナタリア」