だが、ナタリアは今彼女を遠巻きに見ている立場にいる。

本来あそこにいるのは自分のはずなのに、まるで夢の中にいるようだ。

しきりに喚いていたアリスだったが、ナタリアに気づくと、憎々しげに睨んできた。

まるで、自分がこんな目に遭ったのはナタリアのせいだとでも言わんばかりの目つき。

そこでナタリアは、ハッと我に返る。肝心なことを思い出したのだ。

「あの、アリス様。牢獄の床は滑りやすいからお気を付けになられてくださいね」

「は? なんであんたがそんなことを知ってるのよ!」

荒々しい素の気性を隠そうともせずに喚き、アリスが胡乱なまなざしを向けてきたが、すぐに目の前から連れて行かれてしまった。

アリスも衛兵もいなくなった玄関ホール。

人の気配を感じてナタリアが振り返ると、螺旋階段の中腹にレオンがいて、アリスが連れて行かれた玄関扉をじっと見つめていた。

その表情は、見たこともないほど悲しげだ。

「お兄様……」

どんな悪事を働こうと、それでもアリスはレオンの番なのだ。

最愛の番に裏切られた彼のショックは相当なものだろう。