狂気を孕んだダスティンの声が、キンと鳴り響いた。

ギルは無表情でそんなダスティンを見下ろしながら、冷たい声で言い放つ。

「私は、あなたのもとに戻ってきたわけではありません。かつてあなたが私に持ち掛けたように、兄上を皇帝から引きずり下ろす気概は、もうないのです」

「何をおっしゃっているのです!? では、どうしてまた私の前に姿を現されたのですか!? 今度こそリシュタルトを葬るためでしょう!?」

「簡単なことですよ」

ギルが、にっこりといつもの笑みを浮かべる。

「大事な人を守るためです」

理解できないという風に、ダスティンが表情をゆがめた。

ギルは膝を折ると、床に這いつくばっているダスティンに顔を近づけた。

穏やかなようでいて、その目は烈火のごとく怒りに満ちているのがナタリアには分かった。

「私はかつて、たしかに皇帝陛下を憎んでいました。彼のせいで王室を追われ、呪いをかけられ、獣人であることすらやめさせられたのですから。でも今は、そんなことはどうでもいいのです。彼女の存在が、私に気づかせてくれました」

言い終えるなり、再びギルはみるみる銀色の狼に姿を変えた。

刺すような殺気を放つバイオレットの瞳をに射抜かれ、ダスティンが「ひぃっ」と怯えた声を上げた。