ー無邪気な殺人鬼ー

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朝学校へ行くと、話題はうちのアパートの隣の住人の話ばかり。



「ねぇ、まどかまじでびっくりしたし。まどかのアパート映るし、事件とか言うからみんな心配したんだよ!」



私の机には、心配した目をしたのはーー親友の荒木めいしか居ない。

他は数名いたが、"好奇心"に溢れた目をしている。


キラキラ輝いて、早く事件の内容が知りたいって顔。

こう言っちゃなんだけど、こう言う奴らは好きじゃない。

「ーー虐待で子どもが亡くなったんだよ」



みんなどんな顔する?
なんて感じる?


やっぱり最初はーーーー








「ーーじゃあその親は、その子に殺されるのか」






は?


最初可哀想から始まると思っていた私は、聞こえてきた男子の声の主を探した。


「ーー何それ、池脇。「だってお前の横にいる小さい女の子だよな」



え、横?



居ないーー。

見えない。

当たり前だけど、何もしかして池脇は。





「あーあ、消えちゃった。
餓死した子どもだよな、だけどちょっと肉ついてたけどな」



天井を見上げて池脇は、あーあ、と口にした。



「ーーお前、気をつけろ。
あの餓鬼は危ない」


いや、お前が言うなって言いたい。

もし本当に幽霊がいた、としても相手は小さな女の子だ。


何が危ない、と言うのかーー。



つか、むしろコイツのが危ない気がする。


私達の会話に、みんなはゴクリ、と唾を呑み込み聞いているだけ。


「ーーーー子どもがいたとしても、あんたのがよっぽど危ないし!!「マンションの事件、調べてみたら?」




は?


私の言葉を遮り、池脇は朝のニュースの話をした。



ーーマンションの一室から、肉の無い遺体が発見されたーー






池脇は何を私に
伝えようとしているの?


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朝、虐待ニュースとダブルで、マンションのニュースをみた後で
クラスメイトの池脇真也はーー


『その餓鬼は危ない』


小さな女の子が、見えるだろう池脇。


そして、私は今ーーーー
1人スマホ片手に、メロンパンをかじった。


誰も居ない解放された屋上で。

快晴の下でーー。



虐待ニュースのトップ画面は、今朝起きたばかりのニュースで飛び交う。

『小さな女の子、虐待』
『餓死』
『鬼畜すぎる!!』



そうだよ。
鬼畜すぎる。
あいつらこそ、本物の鬼だよ。

女の子なんか、じゃないーーーー。

そして、その後にあったマンションの一室、事件。

見出しはーー。

『肉だけ抜かれた遺体』
『骨になった遺体に、傷なし』
『犯人は吸血鬼か?』

傷なしで、肉だけ抜かれた遺体。

なんで、肉だけ?
噛まれた痕や傷がないってことかな?


小さな女の子からは、肉は無く────骨だけの遺体だった。





それと、反対に

肉だけが抜かれた遺体ーーー。



まさか。






犯人ってーーーー
嫌に寒気がした。







サカサカサカサカ。







んっーー?




今、なんか通った?


屋上は私1人だけ。


カサカサカサカサ、と何かが動いた音。







キャキャ








キャキャ








聞こえる声。





小さな女の子の声だった。




私に霊感なんか、備わって無い。

私は見える物しか信じない。





ごはん、おいしい。







小さな女の子の声が聞こえた。




『ごはん、おいしい』って。

私はーー自分の聞こえた声に知らないフリを決め込んだ。







おねえちゃん、
ごはんっておいしいね。





凄く切なくなったーー。


食べ物を与えて貰えなかった子供。

私は認めざるを得ない。

私はそっと、振り向いたーー。





「キャッ!!
そ、その口どうしたの??」




口元は真っ赤に、白い服を真っ赤に染めていた。


小さな女の子ーーーー。


この子、公園で見たあの夫婦の子どもだ。



間違いないーー。

随分痩せこけていたが、微かに笑う表情は、すれ違いざまに見えた女の子に見えた。




口元が赤い血で、汚れていたーー。

くちゃくちゃと、音が聞こえ溢れるように、大量の血が口から溢れ出した。
その異様な光景に、


私は、背筋が冷たくなるのを感じた。


「これ、おねぇちゃんもたべる?」



ポロ、と床に転がった物に
私の呼吸は止まりそうになる。


だってそれはーー、人間の指だから。





「ひっ!なんで、こんなことっ。
まさかっ」



私は思った。


血を抜かれ死んでゆく人間は、
小さな無邪気な小さな子の姿で現れた幼き殺人鬼に
その命を奪われてーー



息絶えたーー。




この世の溢れる犯罪の中で
もっとも扱いにくい殺人鬼であることは間違い無かった。



ママがーー
じぶんで、たべなさいっていった。




ーー。。


ママが、自分で食べなさいって言った。




自分でなんてまるで、まるで動物に狩りを教える母親みたいだ。

いや、そんな生暖かいものではない。

食事を与えるのも、めんどくさい大人の身勝手さで、亡くなってしまった魂がーー。


招いた結果だ。




「ダメだよ。
人は食べ物じゃない」


誰かが教えてあげなきゃーー。




分からない。

だれも、おしえてくれなかった。






ーー悲痛な子供の声に
泣きたくなるのを耐えた。



「ダメだよーー。
食べ物なら、私が与えてあげるから」


口から出た言葉は、そんなこと。
幽霊になった女の子に、私は何を与えてあげたらいいのかーー。

食べ物を燃やして、あげたら
この子にあげる事が出来るのか分からない。
だけど口元を赤く染めた小さな女の子は、無邪気に笑うだけーー。

「ほんと?












ウソついたら、おねえちゃんのお肉ちょうだいね」











ぞくり、と背中が冷えた。




私のお肉?
お肉って、人肉ってことでしょ?
嫌だ、ヤバイヤバイヤバイヤバイ。

次は、私が殺される!!?





「ーーーウソじゃないよ。
ちゃんとあげるからっ」



冷や汗が、首を伝って落ちてきた。

制服の中にスっ、と入り
冷たい何かが背中に触れた。
触れたのは小さな手ーー。


私の背中にしがみついた女の子だったーー。




ーーーーーーーーーー
指切りげんまん


ウソついたら





おねえちゃんのお肉ちょうだい!!


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私は約束をしてしまった。




指切りげんまんの約束に、子どもにご飯を与える約束。




私は放課後、肉屋さんに寄った。
もらったばかりのお小遣いで、肉屋さんに寄ってそのすぐ横に、"あの子"がいるーー。



私を監視している小さな女の子。





「どのお肉が食べたい?」



この際高いステーキでもいい、と思った。

自分の命が助かるなら、高い出費も高く感じさせないモノである。

女の子が満足してくれるなら
なんでも良かったーーー。



だけど











「ちがう。
においも、見た目もちがう。

これじゃなくてねーーー、あ、アレがいい!!」




小さな女の子は、どのお肉を見ても首を縦には振らなくてーーー。



その代わり、小さな指がちがう"何か"を指していた。









えっーーーー?








「あれ?買い物?
久しぶり!!」




肉屋さんを通り過ぎた、小学生の時の同級生で悪友だったみゆきがいた。


小学生の時から変わらず、ぽっちゃりとした体型をしている。
あの頃からもう少し痩せた方がいいんじゃない?、ってずっと感じていたけど。



久しぶりに、出会うと迫力が違うーー。






「おねえちゃん」





ドキリ、としたーー。








「このひとからおいしそうな、においがする。コレがほしい!!」





やめてーー。





女の子は、みゆきの背中に触れた。


何となく気づいてはいたーー。
いや、元々気づいてはいたんだ。


女の子はーーーー。










「いただきまーす!!」









"狩りの味"を覚えてしまってからは
もうーーー普通の肉では満足出来ない事を。









大きな口が開かれてーーー、グチャ!!、と音がした。




繁華街の街中で、グチャグチャ、と食べる音。
たまにゴリ、と硬い何かに触れる音。


「何!!?
えっ!あ、あ、誰か救急車っ!!」



いや、救急車なんて間に合わないよおばさん。


誰だか分からない人の声が聞こえる。





目の前で、白い骨だけになる同級生を


私はーーーーーー







灰色の瞳で見ていたーーー。








ごめんね、みゆき。






だけど、




私、死にたくないのーーー。





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