ーーーー隣のアパートから
耐えられないほどの子どもの泣き声がした。
小さな子どもの泣き声。
それがーーまさか"虐待"だなんて分からずに。
子どもは泣くもの、なんてーー決め込んで、ただ隣の住人に関わりたくないだけだったただの"傍観者"だった。
テレビにアパートが映し出されてーー
朝のニュースになっているそんな光景が、不思議だった。
隣のアパートの住人は、両親と子どもが2人。
女の子と男の子だったはず。
チラッとしか見てないけどーー。
女の子は3歳ぐらい。
魔の3歳児と言われてる年齢だ。
そして、まだ生まれたばかりの赤ちゃんが男の子だったはず。
学校の帰り道に、公園で両親といる赤ちゃんを見た。
いつも決まった週末ーー。
そこに、女の子は居なかった。
部活帰りの私は、門倉まどか。
16歳。
吹奏楽部で、担当はサックス。
ソロがあるため、練習はかかせなかった。
お昼まで、練習して帰ってくるとアパートの近くに公園があって、家族連れが多い中に、"彼ら"はいた。
だけど決まっていつも
女の子は居なかったーーー。
可愛がる両親と男の子。
だけなら、普通の家族に見え、だけど私は知っている。
あの家族に
もう1人家族がいること。
週末に、家族で公園なんて
穏やかに見えてーーーー
女の子を1度も見た事がない。
どんな気持ちだっただろう。。
私は朝のニュースを見ながら、食パンをかじった。
それっきり、食欲がなく辞めてしまった。
だってーーーー。
"餓死したんだってよーー"
餓死するほど、ガリガリに痩せて、何日食べさせて貰えなかったのか。
私が食べているパン1枚だってーー
食べさせて貰えなかったのか。
チラッと見た子どもの手は、肉がなく骨だけに見えた。
隣にいたんだから、もっともっとーーーー。
だけど、それでも
助けてあげれなかった。
家族じゃないんだから。
助けてあげたいなんて、死んでしまってから言うなんて、私はずるい。
「可哀想なニュースだけど、全国にこう言うニュースは後を立たないからね。無くならないね」
そうーー。
全国にほぼ毎日そう言うニュースは、後を立たない。
『次のニュースです、東京都〇区のマンションの一室から、変死体が発見されました。その遺体は、肉だけなく骨だけだったそうですーー』
え、何それ怖っ。
肉が無く骨だけになった遺体とか。
ニュースはそう語った。
先程、子供の"骨だけになった遺体"の話をニュースで聞いたばかりだ。
奇怪なニュースに胸の中に広がる不安。
隣のアパートにあの家族が来てからーー、度々夜寝れない日もあった。
深夜に激しい物音。
泣きじゃくる子どもの声。
私は、壁を睨んだーー。
あの疫病神。
小さな子どもを死に至らしめた"悪魔達"ーー早くどこかに行けばいいのに。
って思ったんだ。
ーーーーーーーーーー
朝学校へ行くと、話題はうちのアパートの隣の住人の話ばかり。
「ねぇ、まどかまじでびっくりしたし。まどかのアパート映るし、事件とか言うからみんな心配したんだよ!」
私の机には、心配した目をしたのはーー親友の荒木めいしか居ない。
他は数名いたが、"好奇心"に溢れた目をしている。
キラキラ輝いて、早く事件の内容が知りたいって顔。
こう言っちゃなんだけど、こう言う奴らは好きじゃない。
「ーー虐待で子どもが亡くなったんだよ」
みんなどんな顔する?
なんて感じる?
やっぱり最初はーーーー
「ーーじゃあその親は、その子に殺されるのか」
は?
最初可哀想から始まると思っていた私は、聞こえてきた男子の声の主を探した。
「ーー何それ、池脇。「だってお前の横にいる小さい女の子だよな」
え、横?
居ないーー。
見えない。
当たり前だけど、何もしかして池脇は。
「あーあ、消えちゃった。
餓死した子どもだよな、だけどちょっと肉ついてたけどな」
天井を見上げて池脇は、あーあ、と口にした。
「ーーお前、気をつけろ。
あの餓鬼は危ない」
いや、お前が言うなって言いたい。
もし本当に幽霊がいた、としても相手は小さな女の子だ。
何が危ない、と言うのかーー。
つか、むしろコイツのが危ない気がする。
私達の会話に、みんなはゴクリ、と唾を呑み込み聞いているだけ。
「ーーーー子どもがいたとしても、あんたのがよっぽど危ないし!!「マンションの事件、調べてみたら?」
は?
私の言葉を遮り、池脇は朝のニュースの話をした。
ーーマンションの一室から、肉の無い遺体が発見されたーー
池脇は何を私に
伝えようとしているの?
ーーーーーーーーーー
朝、虐待ニュースとダブルで、マンションのニュースをみた後で
クラスメイトの池脇真也はーー
『その餓鬼は危ない』
小さな女の子が、見えるだろう池脇。
そして、私は今ーーーー
1人スマホ片手に、メロンパンをかじった。
誰も居ない解放された屋上で。
快晴の下でーー。
虐待ニュースのトップ画面は、今朝起きたばかりのニュースで飛び交う。
『小さな女の子、虐待』
『餓死』
『鬼畜すぎる!!』
そうだよ。
鬼畜すぎる。
あいつらこそ、本物の鬼だよ。
女の子なんか、じゃないーーーー。
そして、その後にあったマンションの一室、事件。
見出しはーー。
『肉だけ抜かれた遺体』
『骨になった遺体に、傷なし』
『犯人は吸血鬼か?』
傷なしで、肉だけ抜かれた遺体。
なんで、肉だけ?
噛まれた痕や傷がないってことかな?
小さな女の子からは、肉は無く────骨だけの遺体だった。
それと、反対に
肉だけが抜かれた遺体ーーー。
まさか。
犯人ってーーーー
嫌に寒気がした。
サカサカサカサカ。
んっーー?
今、なんか通った?
屋上は私1人だけ。
カサカサカサカサ、と何かが動いた音。
キャキャ
キャキャ
聞こえる声。
小さな女の子の声だった。
私に霊感なんか、備わって無い。
私は見える物しか信じない。
ごはん、おいしい。
小さな女の子の声が聞こえた。
『ごはん、おいしい』って。
私はーー自分の聞こえた声に知らないフリを決め込んだ。
おねえちゃん、
ごはんっておいしいね。
凄く切なくなったーー。
食べ物を与えて貰えなかった子供。
私は認めざるを得ない。
私はそっと、振り向いたーー。
「キャッ!!
そ、その口どうしたの??」
口元は真っ赤に、白い服を真っ赤に染めていた。
小さな女の子ーーーー。
この子、公園で見たあの夫婦の子どもだ。
間違いないーー。
随分痩せこけていたが、微かに笑う表情は、すれ違いざまに見えた女の子に見えた。