「佐藤くん、お待たせ…!」


オフィスは電気が全部消されていて、暗かった。中へ入り、しばらく待っても佐藤くんの姿は見えない。


(トイレでも行ったの…?)


疑問を抱いたまま彼の席に行くと、ウーンと機械が回る音がした。よくよく見たらモニターの電源だけが消されて、本体はまだ電源が入ったままだった。マウスを軽く弄ると、モニターにLINEの画面が出てくる。どうやら、佐藤くんはLINEにログインしたまま何処かに行ったらしい。


「どこに行ったの…?」


その瞬間、モニターの画面が光った。パソコンでログインしたまま、個人の携帯で誰かとやり取りをしているらしい。ポップアップをふと見ると、こんな内容が書かれている。


「俺、仕事終わって家にいる。今日はマジ大変だったよ」

「何時に帰ったの?」

「9時くらい。」

(9時…?)


嫌な予感がして自分の携帯を確認した。佐藤くんが自分にメッセージを送った時間が9時10分。だったら彼はもう家にいた時間だ。なのに、なんでこんな内容送ったの?早速彩響がメッセージを送った。


「佐藤くん、さっき送ったメッセージ、なんなの?」

「メッセージですか?」


しばらくして返事が返ってきた。内容を確認すればするほど、嫌な予感はどんどん確信に変わっていく。少しずつ、指が震え始めた。


「あれ、おかしいな…俺こんな内容送ってないです。ハッキング?」

「本当に?本当に送ってない?」

「そうです。送ってないです。なんか、アカウントハッキングして知り合いからお金送ってもらったりする詐欺の記事読んだことあるんですけ…どそんなものですかね。」

「ーおい、峯野」


後ろから声が聞こえた。この声の主は、確認しなくても分かる。ものすごいスピードで心臓がばくばくと激しく打つのを感じながら、彩響がゆっくりと振り向いた。頭からつま先まで、体中が今の状況を危険だと叫んでいた。


「…大山編集長」


名前を呼ばれた編集長は、意味深な表情で笑った。