「そう、こんなおいしいもの一人で食べるより二人で食べた方がいいでしょう。一緒に食べるんだったら食べてから行きます」

「…承知しました」


彩響の提案に、寛一さんは少し考えて頷いた。それをみて彩響もテーブルの椅子に座る。相変わらずの丁寧な料理たちに今日も改めて感心する。寛一さんも反対側に座り、取り皿を渡した。


「いつも思いますけど、うまいのは洗濯だけじゃないんですね」

「恐縮です」

「これ、全部凄いおいしいです。やっぱり食べてよかったです…部下には申し訳ないけど」

「きっと大丈夫です」




お腹も空いていたし、彩響は料理を次々と平らげていった。食べるのに夢中で気付かなかったけど、顔を上げると寛一さんがこっちをじっと見ていた。ふと目があったら気まずそうに視線を逸らした。


「…会社、大変そうですね」

「まあ、社会人ならみんなこんなもんでしょう」

「いつも無理しているようで、その、…心配です」

「誰がですか?私が?」


向こうは真剣な顔だったけど、彩響は思わず笑ってしまった。


「そんなことないんですってば。…でも、心配してくれてありがとうございます。勿論大変ですけど、最近は寛一さんがいてくれてとても楽になってます」

「本当ですか?」

「そうです。寛一さんのように面倒見が良くて、仕事も丁寧にできる人、他にはいませんよ、きっと。家政夫の仕事だけじゃなくて、どんな仕事をやってもきっとうまくこなせるでしょう」

「…それは…その…よかったです」

「うん、だから長く仕事してください」


褒め言葉にはなれてない青年は落ち着かない様子だった。その姿が少し笑えて、すこし可愛くて、又笑ってしまう。

「…お店の件もあるので、この仕事、いつまで続けられるかは正直俺自身にも分からない部分ではありますが…これ一つだけは確かです。俺は、ここが好きです」

家政夫さんが恐る恐るなにかを言い出す。彩響が箸を握ったままその話に集中した。

「だから、なるべく彩響さんの隣で仕事をしようと思っています。なぜなら、彩響さんは、その、とても…」

言葉を最後まで吐き出せないまま、寛一さんは深呼吸をした。結構長い時間が経ち、やがて彼が口を開けた。


「とても…いい…雇用主さまですから」

「あ…」


なんだろう、このがっかり感。認めたくないけど、なんか心の奥底で失望する自分がいた。その気持ちがばれるのが怖くて、彩響はあえて大きい声で答えた。


「あ、そ…うですね!寛一さんもとても、その…いい労働者です!は、ははは…。あ、そろそろ私行ってみます。ご馳走様でした」

(なに考えてるんだ、この人はただの家政夫さんなのに…。ありえない、ありえない!)


彩響は慌てて玄関に向かった。そこまで付いてきた寛一さんがカバンを渡す。それを受け取ると、いきなり寛一さんが言った。


「彩響さん」

「はい?」

「…気をつけてください」

「…?あ、はい。会社行くだけだから、心配しないでください」


なんかすっきりしない顔で、寛一さんが玄関を開けてくれた。そのまま彩響は会社へと向かった。