その言葉に寛一さんが視線を落として、何かを考え始めた。なんか凄くがっかりさせてしまったようで、彩響が慌ててフォローする。


「いや、本当になんもないですよ。今日はたまたまで、私元々こんなジャンクフード好きなんですよ。それに、本当に何かあったら相談します」

「…本当ですか?」

「はい、だからそんなにがっかりした顔しないでください」

「…」


寛一さんが頷いた。そして真剣な顔で口を開けた。


「このようなジャンクフードは体に決してよくありません。これからは俺が作るものを食べてください」

「うわ…たまにはいいじゃん…」

「いけません。今日彩響さんの食べ方を見て思いました。このお店には今後来ないでください。約束してくださらないと、会社に連絡して契約書に新しい項目を追加させます」

「家政夫さん、怖いね…」


まあ、こんな堅苦しい部分がこの人のいいところでもあるんだよね…。彩響は仕方なく頷いた。返事を聞いた寛一さんが満足した表情で席から立ち上がった。


「さあ、食べたから少し歩きましょう」

「え?夜の散歩なの?嫌ですけど…」

「ダメです。30分くらいは歩きましょう。俺も一緒に行きます」

「寛一さん、説教が増えましたね…」

「…いけませんか?」


調子にのって雇用主の気に障ったのではないか、寛一さんは気になる様子だ。落ち着かないその姿を見ると、なんか笑ってしまう。

「…いいえ」


少しうるさいけど、彩響のことを真剣に考えてくれるのが伝わってくる。結局彩響もカバンを持って立ち上がった。


「良いですよ、一緒に行きましょう、お散歩。一緒なら結構楽しいかもね」

「彩響さんの健康のためです」

「はいはい、さあ、どこ行きます?」

「そうですね…では…」

「…」

「…」


程よい気持ちよさと、程よい安心感。

そして一緒にいると何の気も使わず楽に接することができる。

――男女とか、親子とか、上下関係とか、そんなことをすべて忘れて…

変態家政夫さんは、いつの間にか彩響にとってそんな人になっていた。


「寛一さん」

「はい」

「仕事、長く続けてくださいね」


彩響の言葉に寛一さんが微笑んだ。


「はい、そうします」