――と言って、彩響が向かったのは駅の近くにあるファーストフード店だった。レジでトレーいっぱいのハンバーガーとフレンチフライを持ってくると、寛一さんが頷いた。


「なるほど…これがしょっぱくて甘くて刺激的なもの…ですか」

「そうだよ、略してアショアショなの!」


彩響が片手にはハンバーガーを、もう片方にはポテトフライをいっぱい掴んで答えた。大食い大会にでも参加したようにもぐもぐ食べる彩響を見ながら、寛一はさんは静かにアイスティーを啜った。立派な食べっぷりを見せた彩響が再び立ち上がった。


「デザート追加してきます」

「はあ…まだ食べるんですか?」

「これは別バラ。寛一さんは大丈夫ですか?」

「はい、俺はもう結構です」

「何だ、後で後悔しないでくださいね」


こうして、チョコアイスまで食べ、やっと彩響のグルメ番組撮影は終了した。満足してお腹を撫でると、寛一さんが恐る恐る質問した。

「…今日、なんか嫌なことでもありましたか?」

「え、なんで?」

「その、普段はこれまで食べないと思い…なにかストレスが溜まることでもあったのかと思い」

「……」


嫌なことはあった。でもこれは今更始まったことでもないし、ずっと一人で耐えてきたことだ。この年になって、誰かに弱音を吐く必要はないだろう。


「いいえ、別にそんなことないですよ。今日は本当にお腹が空いただけ」

「…俺、特に地位があったり、電話一本で人殺したりはできないけど、話くらいは聞けます。だからなんかあったら遠慮なく言って下さい」


ふと、今朝佐藤くんが言ってたことを思い出す。何だ、最近の自分はそこまで弱く見えていたんだろうか。彼らの好意は嬉しいけど、ここであれこれ言いたくはない。人生で危機はいくらでもあったし、その度一人でなんとか出来てきたんだから、今回も大丈夫なはずだ。両親の離婚も、貧乏時代も、突然の破婚も…結局なんとかなったから。


「やめてよ、そんな冗談、寛一さんが言うと本気に聞こえますから」

「俺、少しは彩響さんと親しくなったんだと思いますが…違うんでしょうか」

「え、まあ…最初よりはお互い楽になってませんか?相変わらず寛一さんはいい仕事してくれているし、私は全く文句ありません」

「いい仕事…」