瞼の向こうからとても強い光を感じる。頭が割れるような痛みでふと目を開けてみると、見慣れない天井が見えた。頭を抱えてしばらく苦しんでいると、耳に声が届いた。


「目が覚めましたか?」

「ま、眩しい…今何時…?」

「8時です。そろそろ起きたほうが良いかと」


寛一さんはそう言って、お盆にお皿をのせ彩響のところに持ってきた。中には湯気がゆらゆら立ち上る雑炊が入っている。頭痛で苦しいこの状態でも、その匂いがとても食欲をそそる。テーブルの反対側に座った寛一さんが聞いた。


「二日酔いとかはありませんか?」

「あ、大丈夫です。ちょっと頭は痛いけど…」

「昨日は結構飲みましたね。それくらいで良かったです」


その言葉に、昨夜の記憶が映画のように頭の中で上映される。あんなことや、そんなことや、こんなことも隅々まで全部…!彩響が箸を握ったまま怖ず怖ずと口を開けた。

「あの、寛一さん」

「はい」

「その…昨夜のこと、覚えてます…?」


彩響の質問に、寛一さんの体がビクッとするのが見えた。しかし彼は大人の顔で、いつも通りの声のトーンで答えた。


「いいえ、俺も酔って寝てしまったので。なにも覚えてません」

(ウソだー!それ絶対ウソに決まっているー!)

「むしろ俺の方がなにか失礼なことをしたのでは…」

「そ、そんなこと無いよ!は、ははははは…ああ、もうこれからは程々に飲もうかな?」


なんとか誤魔化して、彩響はもぐもぐと雑炊を食べた。寛一さんもそれを望んでいたようで、それ以上は何も聞いて来なかった。彩響は心の中でこう叫んだ。


(お願い、誰か時間を戻して…)

「…今回改めてここに戻って来て、いろいろと考えました」

いきなり寛一さんが話題を変える。彩響もそれに反応した。


「何をですか?」

「俺って、本当に色んな人のおかげで今までやってきたんだなーと。北川さんだけではなく、Mr.Pinkも、他の家政夫のやつらも、みんなとてもいい人で、全く面白みのない俺のような人間によく接してくれたんだと思います。いつか、彼らに恩返しができるよう頑張ります」


自分自身を説明するところがちょっと笑えるけど、彼の言葉はとても優しかった。多少はクール過ぎる場面もあるけど、やはり本性はこういう人だと思う。


「うん、そうですね。きっと出来ますよ、応援します」

「その中でも、一番お世話になってる方は彩響さんです」

「私?そんな、私はただ必要だったから寛一さんを雇っただけで、そんな大したことしてませんよ」

「いいえ、彩響さんは俺の恩人です。いつか、必ず、恩返しさせてください」

「ええ、まあ…ありがとうございます」


なんか力強い彼の言葉に、彩響もそれ以上は否定せず食事を終わらせた。