北川さんのありがたい気遣いで、簡単な夕食も頂き、シャワーも借りることができた。二人とも風呂から上がると、狭い部屋に気まずい空気が流れる。その気まずさに耐えられなかった彩響がぱっと立ち上がった。


「あ、あ、あの…お散歩行って来ます」

「え?いや、いけません。この辺結構暗いので、行くなら俺も一緒に行きます」

「いや、その…それが…」


あなたとこの部屋にいるのが耐えられないんだよ!とは言わず、彩響は視線をそらす。東京では別々の部屋だったし、仕事から帰ってくると気絶するように寝るのが大半だったので全く気にしていなかったが、今は…。ぎこちなく視線を逸らす彩響の目に、さっきの日本酒が入った。彩響が早速それを持ち上げた。


「の、飲みましょう!」

「はい?」

「せっかく貰ったし、一緒に飲みましょう!」


食器棚からグラスを出し、そのまま部屋の小さいテーブルの上にドンと乗せた。寛一さんは最初慌てたようだったが、すぐ日本酒のビンを開けた。自分もきっとこの気まずい空気を何とかしたかったのだろう。まず一杯ずつ注いで、彩響がグラスを持ち上げた。


「かんぱーい!」

「かんぱーい」


そして一口味見して、もう一口飲んで、そのまま一気に飲み込んでしまう。空になったグラスを下ろして彩響が叫んだ。


「なにこれ、凄いうまい!しかも飲みやすい!」

「そうですね、飲みやすいですね」

「寛一さん、お酒は結構飲む方?」

「そこそこです」

「酒癖は?」

「酒癖が出るほど飲んだことがありません」

「うわ…絶対強いよね、それ」