北川さんは嬉しすぎて、もう彩響の話は耳に入らないようだった。数回否定したが、涙までぽろぽろ流す姿に結局説明を諦めた。寛一さんも何も言わず首を横に振る。

「北川さん、いきなり来て申し訳ございませんが、一晩泊めて貰えますか?」

「もちろんもちろん!いつも通りこのお店の2階に泊まりなよ。あ、それとこれも一緒に持ってきな、うちの自慢の日本酒」


北川さんがお店の棚においてあった大きいビンを渡した。彩響がびっくりして必死に断ったが、北川さんはもっと必死だった。


「そんな、申し訳ないです、むしろこちらこそ、手ぶらでごめんなさい」

「君、本当にいい子だね。さすが寛一のヤロウ見る目あるわ。これは俺からの差し入れだから受け取ってくれ!ほら、嫁さん疲れただろうからさっさと二階へ上がれ!」

「あ、あ…ありがとうございま…す?」


背中を押され階段を上り、二人は二階の部屋に入った。中には小さい部屋と浴室、そして小さいキッチンが付いている。ここまで来て今更ではあるが、彩響は自分がとても大きいミスをしてしまったことに気が付いた。

「あの、寛一さん…私たち、ここで一緒に寝るんですか?」

「…あ」

「あ、じゃないでしょう!」

「あ…その…もう遅いので、とりあえず上がりましょう」

(嘘でしょう…)

5畳くらいの小さい部屋に、畳んである布団も一つしか見当たらない。彩響は大きいビンを抱いたまま、ため息をついた。


(今日は、誰も寝れそうにないね…)