「朝は忙しいし、食欲もないので。コーヒー一杯とドーナツくらいで十分です」

「なるほど…承知しました」

三和さんは特に何かコメントすることもなく、淡々と次の場所へ移動した。
次は浴室。

「カビ…できてますね」

「し、仕方ないですよ。仕事が忙しくて掃除する精神的余裕が…」


そしていよいよ次は――

「あ…」

彩響の部屋に入った三和さんが言葉を無くす。その反応にちょっとムカッときた。


「…なにか言いたいことあります?」

「いいえ、特にないも…」

「朝から夜までずっと仕事なんですよ?こうなるのが当たり前でしょ?」


仕事に追われ家事ができていないのは事実だし、それで自分が問題の多い女だと思ったことは一度もない…が!やはり目の前でこうして現場を見られると恥ずかしくなってしまう。


「仰る通りです。人間誰でも朝から夜まで何かをやっていると、当然家にまでは手が回らなくなるでしょう。恥じることではありません」

「いや、べ、別に恥ずかしいと思ってはいませんが…どうせあなたも『この女…女子力足りない』、とか思ってるんでしょ?」

言われなくても、世間で言う「女子力」というスキルが自分に欠けていることは十分分かっている。掃除とか、料理とか、裁縫とか、そういう類のもの。

彩響の反応を予想していなかったのか、寛一さんが目を丸くする。どうしてそのような話題が出たのか理解できない様子だった。


「…どうしてそのようなことを?そもそも『女子力』なんて、俺が思う中で最も理解できない言葉だと思いますが」

「え…」