(なによ…人がせっかく提案してあげたのに)

お弁当を食べながら、彩響は昨日のことをじっくりと考えた。

どう考えてもあの態度はおかしい。普段あまり感情を見せなかった分、今回の反抗(?)の原因が気になって仕方なかった。

「…相変わらずお弁当が美味しいのもまあ、寛一さんらしいよね」

――プルルルル!

スマホの音で彩響は発信者を確認した。しかし登録されていない番号で、彩響はゆっくりと「通話」ボタンを押した。


「はい、峯野です」

「あ、彩響?俺、成!元気?」

「河原塚さん?」


河原塚さんから電話が来るとは、珍しいこともあるものだ。彩響が質問した。


「お久しぶりです。…で、どうされました?」

「あ、そろそろ寛一の里帰りシーズンだからさ。実は、俺たち家政夫同士でお互いの有給に代理で派遣されたりするんだよな。今回は俺があいつの代理になってあげようと思って」

「里帰り…?」

「あれ?まだあいつから何も言われてない?あいついつもこの時期里帰りするんだけど」


里帰りなんて、初耳だ。本人からもMr.Pinkからも何も聞いていない。なんだ、毎年里帰りしておいてなんで今年はあれだけ拒否するの?河原塚さんにその件について聞こうとした瞬間、彩響のなかでなにかが閃いた。


「河原塚さん、ひょっとしてその寛一さんの『里帰り』の場所、知ってます?」

「あいつの地元?あ、あいつ確か青森の田舎だと言ってたような…」

(青森…)


スマホを持ったまま、パソコンで青森への新幹線の時間を検索する。東京から約4時間、自然豊かな都市。一回も行ったことのないそこに興味が湧いてきた。

「ありがとう、河原塚さん。いろいろと」

「え?俺何かやったっけ?」

「あ、代理の件は結構です。本人とお話して決めますので。じゃ、又あとで」


電話を切った後、彩響はさっそく自分の有給申込みをメールで送った。しばらくして大山編集長から返事が来た。


「なに、有給使いたいの?どうせ一緒に過ごす男もいないんだろう?仕事すれば?」