「休暇に関しましてはCinderella社との契約書にもちゃんとある項目なので、強制です。いつかは使って頂きますからね。雇用主の命令です」

「…承知しました。その通りにいたします」


三和さんは100%納得してない顔で答えた。理由は分からないけど、それを今探る必要性は無いはず。彩響は引き続き契約書の内容を読み続けた。



「なにか家事に必要な備品があったら、領収書を取っておいて後で請求してください。…ここまで何か質問あります?」

「ありません」

「じゃあ、ここにサインしてください。これで説明は終了です」

三和さんは少しの迷いもなくさっとサインを済ませた。性格をそのまま表す、整った文字でちょっと笑ってしまう。サインを済ませた彼が立ち上がった。


「さっそくですが、改めて職場を紹介してもらえますか?」

「あ、どうぞ。こっちです」


彩響は三和さんをこれから使ってもらう部屋へと案内した。元々人が使用する予定だったから、ある程度家具などは用意されている。一応人が来るから軽く掃除はしたけど…中へ入った寛一さんが軽く感想を言った。

「いい部屋ですね。どなたか以前ご使用になられた部屋ですか?」

(元彼、がね)

一瞬元彼のことを思い出したが、彩響は軽くその考えを吹き飛ばした。

「予定はそうだったけど、結局使わなくて、全部新品だから遠慮せず使ってください。何か追加で必要なものがあったら言ってください」

「…いいえ、ここにあるもので十分です」

何故ここが空き部屋になったのか、その理由には触れずに寛一さんは早速自分のキャリーバックをあけ荷物を出した。出てきたのは、シャツと、ズボンと、後は…

(…ミシン?)

一見してもかなり古そうな機種のミシンを出すと、机の端っこに丁寧に置いた。設置までするのかな?と思ったら、そのまま放置してこっちへ戻ってきた。


「では、他のところも拝見いたします」

「あ、どうぞ」


次に案内したのはキッチンだった。あっちこっち食べ残しのコンビニ弁当やカップめんの容器などが転がっている。

「こっちがキッチンです。ほぼ食事することはないですけど」

「朝食も取らないのですか?」